白井墓守

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『砂時計の音』

サラサラサラ……。

「砂時計の音ってさ、何かに似てると思わない?」

夜の部室で、いきなり彼女がそう言った。
僕は取り出していたカップ麺の蓋を慎重に開けながら、首を傾げる。

「何かってなんだい?」
「それはちょっと思い出せないけど……」

うーん、と彼女は頭を抱えて悩みこんでしまった。
僕は彼女をよそ目に、砂が流れきった砂時計をひっくり返す。
再び、サラサラ……と砂時計から砂が流れる音がしだした。

僕は、ふとこんな事を思った。
よく人間の残りの命は蝋燭に例えられるけど、もしも実は砂時計のようなタイプだったのならば? と。

体育で走らされたシャトルランのように、一回の砂時計ではなく、何回も何回もひっくり返して命が繋がれていく。
そして、ふと。うっかりと神様がひっくり返し忘れてしまった砂時計が、事故やら病気になって死んでしまうのだ。

……なんて、馬鹿な考えだろうか。
理系で化学部の僕が急に詩人に転向などして、どうなるというのか。きっとどうにもならないだろう。

「そうだ!」
「どうしたの?」

彼女が何かを閃いた様子で立ち上がる。
僕は優しく聞き返しながら、砂が落ちきった砂時計をみながら、蓋を開けていたカップ麺にお湯を注ぐ。
そして、もう一度砂時計をひっくり返すのだ。

「砂時計ってさ、波の音に似てない? ほら、ざっぶーん、ザラザラザラザラ〜みたいな!」

目を輝かせて彼女は僕にそう語る。その様子が微笑ましくって、僕はくすりと笑いながら彼女を優しく見つめ返した。

「どう?」
「まあ、そうかもね」
「でしょ!!」

内心、そりゃあ海で砂が流れるのと、砂が落ちる音は似ているだろうと思いつつも、この満面の笑みを浮かべる彼女を見ると、僕はどうにも言葉が出てこなくなるのだった。

「ほら、カップ麺出来たよ」

滑りきった砂時計を見て、僕は彼女にカップ麺を差し出す。

「本当に? やったあ! ありがとう!!」
「どういたしまして」

きっとなんてことのない、やりとりだ。
でも、僕にはずっとずっと眩しく見えた。

そんなある日の夜だった。


おわり

10/17/2025, 10:16:39 PM