『愛-恋=?』
「愛から恋を引くと、いったい何になると思う?」
「あ、だろ」
「……いや、単純にアイからコイで重なってる文字のイを消滅させろっていう、文字パズルを聞いているんじゃなくてだね……?」
ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃと。
巣作り中のキツツキの如き喧しさを持って、目の前の男は言葉を不法投棄し続けている。
「わかった、つまりアレだな? お前は……愛は相手のためのモノで、恋は自分のためのモノって言いたいんだな?」
「あぁ、そういう事になる。やっと君にも伝わったか」
俺はか細い息を長く吐くことで、込み上げて来る怒りを穏便に沈めた。
幼馴染でなければ、三発は腹に入れていた。
……いや、幼馴染でなければコイツの話を聞く必要なんてなかったのだが。
か、考えないようにしよう。
「そんな愛から恋を引けば、いったいそれは何になると……君は思う?」
「――奴隷じゃね?」
「……奴隷??」
幼馴染は眉を顰めて、訝しげな顔をこちらに向けた。
「恋が愛になって、でも恋が冷めたんだろ? なら、あとは惰性で相手のために無償で奉仕する奴隷なんじゃねえの?」
「ほう……一理ある」
そう言って幼馴染が頷くが、指をトントンと机に叩く。
これは、何か言いたいことがある、という事だ。
「で、お前は何だと思ったわけ?」
俺がそう聞くと、幼馴染はすっと指を指した。
俺の前にあるプリントで、期限の遅れた課題だ。
小難しい内容のソレに、俺は頭脳明晰な幼馴染の力を借りていた。
「愛ではあるが、恋ではない……それは、友情というものではないか、とそう思ったんだ」
「………」
俺はヤツの言いたいことが分かり、気まずげに視線を反らし口を噤んだ。
「まさか、今……僕の行為が奴隷だと発覚するとは。目から鱗だったよ」
凍った空気の中、ピーヒョロローと間抜けな小鳥の声だけが辺りに響いた。
おわり
10/15/2025, 10:18:28 PM