『予感』
予感がした。
あぁ、きっと行くべきだ、と。
理由なんて無い。
むしろ理性は止めろ馬鹿と、けたたましい警報ベルのように鳴り響いていたが、本能がそれ以上に強く、強く欲した。
きっと、この手を掴まねば欲しい物は一生手に入らないぞ。と、それは砂漠で喉をカラカラにした旅人の前に差し出された草臥れて汚い水袋のように、その時確かに思えたのだ。
だから、こそ。
俺は……手を取った。
「俺、アイドルになります」
予感が、した。
きっと俺は、たくさんたくさん後悔する。
見なくて良い闇を見て、無遠慮に吐き出されるファンの皮を被った悪魔の罵詈雑言の心を使い古されたボロ雑巾のようにされる。
……それでも、それ以上に――今、行かないと一生ずっと後悔し続けるのだ。
やる後悔と、やらない後悔なら、俺は前者を選びたい。
差し出された手を強く握った。
その熱さと、自分の固い手、滲み出る自身の手から出る汗の居心地の悪さを、俺は一生忘れないだろう。
秋なのに、まだまだ熱い太陽の日差しに目を焼いた。
そんなよくある、秋の日だった。
おわり
10/21/2025, 11:17:44 PM