question
貴方は、
気付いていないのですか?
私の瞳が、
いつも、貴方だけを、
映していることを。
私を汚泥の中から救い出し、
生きる喜びを教えてくれた、
貴方という存在が、
ただ一つの光として、
私の心を照らしていることを。
そして、私の指先は、
そっと空気をなぞりながら、
触れられないもどかしさに、
焦がれているのです。
貴方は私の全てです。
もし、貴方が、
私の愛を拒むのなら。
いっそ、貴方の全てを、
壊してしまいましょう。
そして、私と二人きり、
最期の吐息を交わしましょう。
そうすれば、
貴方にも分かる筈です。
私がどれほど、
貴方を愛しているのかを。
――では、最後に。
貴方に質問です。
…私を、愛していますか?
約束
冷たい夜の風が、
静かに頬を撫でる。
独り影を踏みながら、
空を仰ぎ、星を数えた。
お前は覚えているだろうか。
あの日交わした約束を。
変わらぬものなど、
ないと知りながら、
それでも、信じた誓いを。
あの日、瓦礫のように、
崩れ落ちた日常。
拾い集める事も出来ず、
ただ、砕ける音だけが響いた。
もう二度と、
温もりに希望を探しはしない。
もう二度と、
お前の名を呼ぶこともない。
それでも、まだ。
私の胸の奥には、
鈍い灯が残っている。
もし、これを、
約束と呼べるのなら。
せめて、最後まで、
燃やし尽くそう。
そして。
お前の幸せを祈ろう。
二度と交わらぬ道の先から。
ひらり
ひらり、ひらり。
私の手のひらで舞うのは、
風に遊ぶ粉雪でしょうか。
早春を彩る花びらでしょうか。
それとも――
貴方の生命の欠片でしょうか。
貴方は、私の全て。
幾度となく心が囁きます。
貴方の優しさに救われた日から、
私の生命も、心も、
貴方を求めて、止まないのです。
貴方の魂は、
余りにも美しく、
余りにも儚くて。
この醜悪な世界に傷付けられ、
ひび割れ、砕け散り、
苦しみに沈んでゆくのです。
愛しい貴方の絶望が、
私の指先に触れるたび、
切り裂かれるような、
甘美な痛みが胸を満たすのです。
そして、静かな破滅が、
そっと爪を立てるように、
ゆっくりと染み込んで、
骨の髄まで浸食していきました。
抗えぬ運命ならば――
いっそ、全てを壊しましょう。
貴方を苦しみから救うために。
二人きりの世界へ旅立つために。
すべては……愛の名のもとに。
ひらり、ひらり。
私の手のひらで散るものは、
溶けゆく雪兎でしょうか。
散らされた紅の花でしょうか。
それとも――
貴方の最期の鼓動でしょうか。
誰かしら?
オレは、オレを罰する。
亡き母に向かい、
何度も何度も、
謝罪を繰り返す。
「要らない子」だと、
分かっていた。
それでも――
ただ、見て欲しかった。
だから、オレは必死に、
母の言いつけを守った。
いい子でいようとした。
それなのに。
母の口から零れた言葉は――
「誰かしら?」
その一言が、
オレの存在を切り裂いた。
ずっと、ずっと、
母の声が欲しかったのに。
でも。
欲しかったのは、
こんな言葉じゃない。
だから、オレは今夜も、
オレを罰する。
愛されなかった、
出来損ないの人形に、
鞭を振るい、痛みを刻む。
顔に、腕に、背に、
鮮血が滲み、
オレの身体を、
朱に染めていく。
今は亡き母へ――
赤い花の代わりに、
この痛みを捧げるから。
だけど、オレの謝罪は、
天に届きはしないだろう。
ただ、冷たい床に、
落ちて、砕け散るだけ。
芽吹きのとき
霧のような朝の光が、
冷たく黒ずんだ大地の隙間を、
優しく照らしていきます。
静かに、ゆっくりと、
重たい土を押し上げながら、
小さな芽が、
密やかに顔を覗かせます。
誰の目にも触れず、
誰の手にも触れず、
ただ、静かに、
漸く訪れた、芽吹きのとき。
この芽が伸びゆく日を、
この芽が緑に染まる日を、
この芽が風に揺れる日を、
私は独り、
夢見ているのです。
けれど——
触れてしまったら、
壊れてしまいそうで。
ただ見守ることしか、
出来ないのです。
足元には
踏み締められた枯れ葉。
まるで私の、
貴方への想いのように、
誰にも気づかれず、
静かに朽ちていくのです。
私の想いは、
芽吹くことは赦されず。
私はただ、
春の光に花開く貴方を、
見守ることしか、
出来ないのです。
〜〜〜〜〜〜
あの日の温もり
独り凍える夜。
静寂の中で、
鼓動だけが、
やけに大きく響く。
冷たい布団を抱き締め、
寒いのは冬のせいだと、
自分に言い聞かせてみる。
そっと目を閉じると、
貴方の笑顔が、
滲むように蘇る。
貴方が私に、
微笑みかけてくれたのは、
もう、遠い昔の事なのに、
まるで昨日の出来事のように、
記憶の中の貴方は鮮やかで。
手を伸ばしても、
決して触れることは、
出来はしないのに。
だけど、
せめて夢の中でなら、
未だ愛してるよ、って、
伝えられるかな。
あの日の温もりは、
二度と戻らない。
そんなことは、
痛いほど分かってるのに。
それでも私は、
貴方の温もりの記憶に、
今も尚、縋ってしまうんだ。