芽吹きのとき
霧のような朝の光が、
冷たく黒ずんだ大地の隙間を、
優しく照らしていきます。
静かに、ゆっくりと、
重たい土を押し上げながら、
小さな芽が、
密やかに顔を覗かせます。
誰の目にも触れず、
誰の手にも触れず、
ただ、静かに、
漸く訪れた、芽吹きのとき。
この芽が伸びゆく日を、
この芽が緑に染まる日を、
この芽が風に揺れる日を、
私は独り、
夢見ているのです。
けれど——
触れてしまったら、
壊れてしまいそうで。
ただ見守ることしか、
出来ないのです。
足元には
踏み締められた枯れ葉。
まるで私の、
貴方への想いのように、
誰にも気づかれず、
静かに朽ちていくのです。
私の想いは、
芽吹くことは赦されず。
私はただ、
春の光に花開く貴方を、
見守ることしか、
出来ないのです。
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あの日の温もり
独り凍える夜。
静寂の中で、
鼓動だけが、
やけに大きく響く。
冷たい布団を抱き締め、
寒いのは冬のせいだと、
自分に言い聞かせてみる。
そっと目を閉じると、
貴方の笑顔が、
滲むように蘇る。
貴方が私に、
微笑みかけてくれたのは、
もう、遠い昔の事なのに、
まるで昨日の出来事のように、
記憶の中の貴方は鮮やかで。
手を伸ばしても、
決して触れることは、
出来はしないのに。
だけど、
せめて夢の中でなら、
未だ愛してるよ、って、
伝えられるかな。
あの日の温もりは、
二度と戻らない。
そんなことは、
痛いほど分かってるのに。
それでも私は、
貴方の温もりの記憶に、
今も尚、縋ってしまうんだ。
3/1/2025, 10:02:02 AM