霜月 朔(創作)

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1/26/2025, 5:49:36 AM


終わらない物語




貴方は、私の隣で、
静かに眠っています。

身動ぐことも、
鼓動を刻むことも、
呼吸をすることさえ、
ありません。

そっと、貴方の頬に触れます。
貴方の身体からは、
少しずつ、その温もりが、
失われていくのが分かります。

「もう、大丈夫」
そう語りかけながら、
愛しい貴方の口唇に、
小さなキスを落とします。

悪意渦巻くこの世界で、
苦しみ続けた貴方。
そんな貴方に、
私は、永遠の安らぎを、
与えてあげたのです。

私は、
最期の朱に染まる貴方を、
そっと抱き締めます。
「今から私も
貴方のもとへ逝きますから」
と、囁き微笑みかけます。

私は、
貴方に安らぎを与えた、
冷たくも美しい、
銀の刃を手に取ります。

何も怖くはありません。
私達が記していくのは、
終わらない物語、
なのですから。

1/25/2025, 6:18:47 AM

やさしい嘘


あの日、貴方は、
苦しそうな眼をして、
私の元を去っていった。
私を、傷付けないように。
…そう、願って。

だから、私は貴方を、
忘れようとしたけれど。
愛しい貴方の面影は、
壁に刻まれた傷の様に、
消えてはくれなかった。

それでも、私は、
ずっと、貴方を想っていた。
貴方だって、きっと、
気付いていた筈。

それなのに、貴方は、
人形みたいな、すまし顔で、
やさしい嘘を吐く。
『お前の事なんか、忘れた。』
…だ、なんて。

本当は、貴方も、
心で泣いていたのに、
その涙を隠して、
独りで、消えようとした。

『もうお前を、
愛してはいない。』
そんな、言葉さえも。
貴方のやさしい嘘だって、
分かっちゃったから。

貴方が紡ぐ、やさしい嘘は、
切ない程に脆くて、
残酷な程に優しい、
貴方の心、そのもので。

だけど、
私には、嘘は吐けない。
だから…言うね。

『それでも
貴方を…愛してる。』

1/24/2025, 8:03:47 AM

瞳をとじて


さぁ、瞳を閉じて。

その瞼をそっと下ろし、
全ての現実から目を背けて。
そうすれば、君と私は、
本物の恋人同士の様に、
恋という甘い海の幻に、
溺れることが出来るから。

お互いの瞳を閉じて、
只、お互いの温もりだけを、
感じられれば、
あの日、失った恋さえも、
幻の幸せの中で、蘇るから。

今、この瞬間、ここにいるのは、
君と私だけ。
だから、お願い。
今だけは、私だけを見詰めて。

---

どうか、瞳を閉じて。

何も見えないふりをして。
何も気付かないふりをして。
失った恋も忘れたふりをすれば、
私と貴方は、
本当の恋人同士の様に、
愛に身を委ね、
揺蕩うことが出来る筈。

ふたりで瞳を閉じて、
只、お互いの存在だけを、
感じられたなら、
待ち人が帰ってきたという、
小さな嘘も、信じられる筈。

今、この瞬間、ここにいるのは、
貴方と私だけ。
だから、お願いです。
今だけは、私を抱き締めて。

1/23/2025, 9:02:13 AM

あなたへの贈り物



私は、嘗て。
絶望の底にいました。
人の悪意に貶められ、
身も心も傷つき、
生きる希望さえ、
見失っていました。

そんな私に、
一筋の光を教えてくれた、
誰よりも大切な、貴方。

しかし。
貴方の瞳は、
いつも深い苦悩と絶望に、
深く染められていました。

この醜く残酷な世の中で、
生きていくには、
貴方は余りにも、
優し過ぎたのです。

大切な貴方に、
私は最後の贈り物をします。
それは冷たくも美しい、
銀色のナイフ。

哀しく微笑む貴方に、
銀色の刃が翻り、
赤色が迸ります。

貴方を、そして、私を。
朱が染めていきます。
これで、貴方は永遠に、
苦しみから、解放されるのです。

私の最期の、
貴方への贈り物。
それは、
貴方を苦しみから救う、
優しい…永遠の痛み。

1/22/2025, 7:51:55 AM

羅針盤



混沌の渦に佇む俺は、
迷いの闇を彷徨う。
まるで、くるくると廻る、
壊れた羅針盤の針のように。

東には、偏見が蔓る。
心まで切り刻む刃の様な、
歪んだ言葉が、渦巻き、
魂の色を単色に染め上げ、
他者を枠に押し込める。

北には、絶望が広がる。
人の温もりさえも、
氷の天秤で裁き、
吹き荒れる吹雪は、
身も心も氷柱に変える。

南には、飢渇が蔓延る。
慈しみの雫も消え、
情け容赦ない太陽は、
希望という命の水さえ奪い、
乾いた大地だけが果て無く続く。

西には、孤独が固まる。
古からの記憶は、
心の砦の扉を、固く閉ざし、
他者の足音を拒み、
深い静寂の闇に沈める。

くるくると廻る、
羅針盤の針。
何処を指したとしても、
希望という光なんて、
見つかりはしないんだ。

錆びた羅針盤を握り締め、
俺は、夜空を見上げる。
永遠の道標、北極星。
いつも、憧れだった君。

俺は迷いながらも、
歩き始める。
君の光に導かれるように。

壊れた羅針盤しか、
持たない俺には、
君こそが、永遠の光だから。

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