霜月 朔(創作)

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1/18/2025, 10:04:25 AM

手のひらの宇宙



初めて会ったとき、
君は、その瞳に怯えた影を宿し、
私を見上げていた。

身も心も深い傷を負い、
愛する事も、信じる事も、
自分自身さえ見失っていた。

だが、私には分かっていた。
君はとても大切な存在で、
愛されるべき存在で。
本当は誰よりも、
煌めく光を持っている事を。

だから私は、
君を護りたいと願った。
君がその輝きを、
取り戻せるように、
両の手のひらで、
君をそっと包み込んだ。

小さな手のひらに広がる、
無限の宇宙。
誰よりも愛おしく想える君。
私の大切な…星の煌めき。

君は美しく、そして、
本当に…強い。

いつか君は、
この手のひらから、
飛び立つだろう。
もっと広く大きな世界へ。

私の手のひらには、
収まりきらない程、
君は、強く大きく、
そして美しく輝く。

それでいいんだ。
私はただ、君の輝きを信じ、
そっと背を押す。

汚れきった私は。
醜く汚れた、この地上から、
この小さな宇宙を、
いつまでも、
見守っているから。







…………

風のいたずら



冬晴れの昼下がり。
窓から紛れ込むのは、
冷たくて、
それでいて、どこか優しい、
雪解けの風。

机の上の日記帳は、
一片の風に煽られ、
微かな音を立てて、
過去のページへと巡る。

冬の風のいたずらが、
微かな記憶の扉を開き、
少し前の俺を蘇らせる。

そこに綴られた、
届かない思い。
思いを告げられない、
もどかしい恋心。

胸の内から湧く想いは、
言い訳ばかりで、
綴られた言の葉達が、
君に届くことは、
ないんだろう。

目を閉じれば浮かぶのは、
憧れの君の、優しい笑顔。
遠く、追いつけない背中。

冬の風はまだ冷たいから。
また俺は、俺に言い訳をする。
口から溢れるのは、
小さな溜息。

風のいたずらに、
疼く心を抱えて、
俺は、君への想いを、
閉じ込めるように、
そっと日記を閉じた。

1/17/2025, 7:43:34 AM

透明な涙



お前の心は、
いつも、独り。
今は亡き、大切な友以外、
もう、その瞳には、
映らないんだろう。

どれほど多くの仲間に、
囲まれていても、
孤独に沈むお前の心は、
いつも、静かに泣いている。

失った友を想い、
胸の奥で流し続ける涙は、
後悔と無念に染まり、
深い紅に変わっていく。

そんなお前に、
俺が出来る事は、
ただ傍に、寄り添うことだけ。

死して尚、
お前の心に住み続ける、
想い出の彼は、
きっと、消えはしないし、
俺がその代わりに、
なれやしない。

だから、いつの日か、
お前の流す後悔の雫が、
温かく、美しい
透明な涙に変わるように。

涼しい顔の裏で、泣き続け、
漆黒の未練に、
絡め取られているお前が、
いつか、自分自身を赦し、
透き通らせる日が来るように。

ずっと、ずっと。
近くて遠い場所から、
見守る俺の想いは、
静かに流れ落ちる、
透明な涙と共に、
消してしまおうか。

1/16/2025, 7:24:07 AM

あなたのもとへ



貴方が去ったあの日から、
幾度も冬は訪れて、
氷の粒を降り積もらせる。

貴方への想いは時と共に、
消えゆくものだと、
信じていたのに。

季節は巡り、
記憶は薄れゆく筈なのに。
貴方の面影だけが、
まるで氷の欠片のように、
冷たく綺麗に輝いてる。

今でも私は、
思い出の中で、
優しく微笑む貴方に、
心を奪われてるんだ。

貴方が、新しい恋に出会えば、
貴方を忘れられるのかな?
でも きっと、
この未練がましい心には、
貴方の幸せすら、
素直に喜べないほどに、
貴方が、深く刻まれてる。

堪えきれない想いが、
私の口唇から溢れ、
風花となって舞い上がる。

私はただ独り。
鉛色の雲に覆われた、
寂寥の空を見上げて、
白い煌めきに祈るんだ。

この想いを込めた言の葉が、
舞い散る粉雪となって、
そっと、貴方の元へ、
届きますように。

1/15/2025, 5:05:01 AM

そっと



見えますか?
世の中は、
肉食動物の牙よりも残酷で、
人の心は、
淀んだ沼の汚泥より醜くて。

こんな醜悪な世界に、
身も心も翻弄され続けて、
心を削られた貴方。
私の愛しいひと。

一時の安らぎを迎える夜。
疲れ切って眠る貴方に、
そっと、語り掛けます。
お疲れ様でした、と。

そっと、そっと。
私は両手で、
貴方の両頬を包み込みます。
貴方の瞼は閉じられ、
微かな呼吸が聞こえます。

そっと、そっと。
私の両手は、
貴方の頬から首へと、
滑り落ちていきます。

静かに眠る貴方に、
私は微笑みかけます。
…怖くはありませんよ。
直ぐに私も逝きますから。

これから行く先が、
どんな所だろうと、
醜いこの世に縛られるよりは、
遥かに幸せな筈ですから。

私は手に力を込めます。
貴方の魂も、心も、
全ての愛も。
最期の一息さえ、
奪い取り、抱き締めるように。

そっと。そっと。
それは、
終わりを告げる鐘の音。
そして、
始まりを知らせる足音。

1/14/2025, 9:45:10 AM

まだ見ぬ景色



俺は独り、佇んでいた。
身体の至る所に傷を負い、
朱に染まった四肢が、
痛みに震えている。

自由に動かす事さえ、
ままならない身体で、
静かに周囲を見渡す。
そこは、悪意の坩堝。
闇が蔓延る世界だった。

地に伏す人々の瞳は、
虚無を映す硝子玉。
最早、救いを求める事さえなく、
只、絶望に埋もれていた。

それでも、俺は歩き出す。
砕け散った心を抱えて、
傷付いた身体を引き摺りながら、
まだ見ぬ光を求めて。

絶望に濡れた瞳に、
在る筈もない景色が、
柔らかな光となって広がった。
大切な仲間に囲まれ、
安らかに笑う俺がいた。

それは、まだ見ぬ景色。
永遠に辿り着くことのない、
憧れの風景。

遥か遠く、
一筋の光の元に見える、
まだ見ぬ景色は、
天使からの最期の贈り物か?
悪魔からの招待状か?

俺は…足を止めた。
これ以上、歩く必要はない。
…そう、覚った。

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