霜月 朔(創作)

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まだ見ぬ景色



俺は独り、佇んでいた。
身体の至る所に傷を負い、
朱に染まった四肢が、
痛みに震えている。

自由に動かす事さえ、
ままならない身体で、
静かに周囲を見渡す。
そこは、悪意の坩堝。
闇が蔓延る世界だった。

地に伏す人々の瞳は、
虚無を映す硝子玉。
最早、救いを求める事さえなく、
只、絶望に埋もれていた。

それでも、俺は歩き出す。
砕け散った心を抱えて、
傷付いた身体を引き摺りながら、
まだ見ぬ光を求めて。

絶望に濡れた瞳に、
在る筈もない景色が、
柔らかな光となって広がった。
大切な仲間に囲まれ、
安らかに笑う俺がいた。

それは、まだ見ぬ景色。
永遠に辿り着くことのない、
憧れの風景。

遥か遠く、
一筋の光の元に見える、
まだ見ぬ景色は、
天使からの最期の贈り物か?
悪魔からの招待状か?

俺は…足を止めた。
これ以上、歩く必要はない。
…そう、覚った。

1/14/2025, 9:45:10 AM