手のひらの宇宙
初めて会ったとき、
君は、その瞳に怯えた影を宿し、
私を見上げていた。
身も心も深い傷を負い、
愛する事も、信じる事も、
自分自身さえ見失っていた。
だが、私には分かっていた。
君はとても大切な存在で、
愛されるべき存在で。
本当は誰よりも、
煌めく光を持っている事を。
だから私は、
君を護りたいと願った。
君がその輝きを、
取り戻せるように、
両の手のひらで、
君をそっと包み込んだ。
小さな手のひらに広がる、
無限の宇宙。
誰よりも愛おしく想える君。
私の大切な…星の煌めき。
君は美しく、そして、
本当に…強い。
いつか君は、
この手のひらから、
飛び立つだろう。
もっと広く大きな世界へ。
私の手のひらには、
収まりきらない程、
君は、強く大きく、
そして美しく輝く。
それでいいんだ。
私はただ、君の輝きを信じ、
そっと背を押す。
汚れきった私は。
醜く汚れた、この地上から、
この小さな宇宙を、
いつまでも、
見守っているから。
…………
風のいたずら
冬晴れの昼下がり。
窓から紛れ込むのは、
冷たくて、
それでいて、どこか優しい、
雪解けの風。
机の上の日記帳は、
一片の風に煽られ、
微かな音を立てて、
過去のページへと巡る。
冬の風のいたずらが、
微かな記憶の扉を開き、
少し前の俺を蘇らせる。
そこに綴られた、
届かない思い。
思いを告げられない、
もどかしい恋心。
胸の内から湧く想いは、
言い訳ばかりで、
綴られた言の葉達が、
君に届くことは、
ないんだろう。
目を閉じれば浮かぶのは、
憧れの君の、優しい笑顔。
遠く、追いつけない背中。
冬の風はまだ冷たいから。
また俺は、俺に言い訳をする。
口から溢れるのは、
小さな溜息。
風のいたずらに、
疼く心を抱えて、
俺は、君への想いを、
閉じ込めるように、
そっと日記を閉じた。
1/18/2025, 10:04:25 AM