日の出
ずっと、ずっと。
私の心は、冷たく深い闇を、
彷徨い続けていました。
一月初旬の、冬の日の出。
その厳かで澄んだ光が、
心の奥に隠し続けている、
真紅の罪と、煤けた悪意を、
浮かび上がらせるようで、
私は目を伏せ、祈る振りをします。
もし、私が、
少し寝坊気味の冬の日差しを、
穏やかに受け入れることが出来たなら。
貴方への想いを、
押し殺さずに居られたのでしょうか。
冬の日の出よりも、
遥かに美しく輝く、
貴方の微笑み。
その光へと手を伸ばしても、
私には、触れることさえ、
許されないのです。
日の出の輝きに、
手が届かないように。
今年の抱負
今年の抱負
凍て付く冬の早朝の空気は、
肌を刺す様に冷たいけれど、
新年の朝は、何処か特別で、
澄み切った静けさが、
深く、胸に沁みる。
君と並んで見た初日の出は、
何年振りだろう…。
思い出すのは、子供の頃のあの日。
眠い目を擦りながら、
肩を寄せ合って迎えた、
あの新年の、朝の光。
俺より小さな君を、
凍える風から護ろうとした、
まだ、幼かった俺。
その腕は細くて、
力も足りなかったけど、
君を想う心だけは、
誰にも負けなかった。
今年の抱負なんて、
大それたものじゃない。
けれど、俺にとって、
これ以上に、大事なことはない。
だから、今年も変わらず、
こう誓うんだ。
――愛しい君の笑顔を、守り抜く。
って。
初日の光が、
新たな決意を照らす。
君の笑顔を、支え続ける。
それが、俺の一年の全てだから。
新年
夜は、心を弱くします。
月の影が闇を生み出す様に、
過去の苦痛が囁き、
その闇に囚われぬよう、
心を強く抱き締めます。
寒い冬の夜。
悪魔の影が忍び寄り、
私を縛ろうとする度、
優しい声色で、
私に語りかけてくれる、
貴方の声と温もりだけが、
私を救う光なのです。
夜、貴方に護られながら、
眠りの淵へと揺蕩い、
朝、貴方の温かな声に、
揺り起こされると、
新しい一日が始まります。
夜が明ければ、
また、次の日がやって来る、
それは、変わらない、
繰り返される人々の営みの理。
だけど、
何故か、今日だけは、
特別な光が差し込むようです。
新しい年がやってきた、と。
皆が楽しげに、
耳に馴染まない、
挨拶を交わします。
「新年、
明けましておめでとうございます。」
一月一日。
他の日と何が違うのか、
私にはよく分かりません。
でも、貴方が微笑んで、
「今年も宜しくね。」と、
私に優しく囁いた、その瞬間。
新年という、堅苦しそうな代物も、
貴方が側に居てくれれば、
私の胸の奥が、暖かくなると、
気付いたのです。
ならば。
…この新年というものも、
悪くないのかも知れない、と。
私は、貴方に微笑み返すのです。
良いお年を
寒風に背を押される様に、
忙しなく行き交う、街の人々。
私も、そのパーツの欠片として、
凍てつく冬空の下を急ぎます。
愛しい貴方の魂は、
あの日、突然、
悪意に、連れ去られました。
どこを彷徨い歩いているのか、
どんな景色を見ているのか、
分からなかった、貴方。
ただ只管に、帰りを願い、
待つことしか、できませんでした。
「良いお年を」と、
当たり前の言葉さえ、
貴方には届けられなくて。
でも、今は。
貴方が隣にいてくれて、
私の拙い言葉に微笑み、
そっと頷いてくれるのです。
喧騒が収まり、広がる静寂。
夜の冷たさに包まれながら、
またひとつ、年が終わります。
どうか、良いお年を。
そして、また来年も、
私は貴方と共に有りましょう。
…この先も、ずっとずっと。
1年間を振り返る
迫る年の瀬。
刃の様に冷たい風が、
もうすぐ新しい年を、
連れて来る。
薄灰色の寒空に、
酷く寂しく佇む、
葉を落とした木々を眺め、
1年間を振り返る。
春、夏、秋、冬…。
俺の1年を彩ったのは、
君の優しい微笑み。
陽だまりのように温かくて。
でも。
幻のように儚くて。
君の微笑みが、俺のものだったら。
そんな、叶わない願いを、
心の奥底に押し隠して、
今年もまた、俺は、
君に背中を向けたんだ。
正月、バレンタインデー、
花見、七夕、夏祭り、
ハロウィン、クリスマス。
そして…君と俺の誕生日。
特別な日は、いくつもあった。
けれど、俺は一度も、
君への想いを、
言葉に出来なかったんだ。
長い間、胸の奥に沈んでいる、
この気持ちは、
言葉にするには、
余りに重くて。
来年こそは。
君の横顔に隠された、
本当の心を知りたい。
俺の、君への想いを、
知って欲しい。
残り僅かなカレンダーを見つめ、
きっと、来年も出来はしない目標を、
俺は、ポツリと呟いた。