霜月 朔(創作)

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12/21/2024, 7:43:32 AM

ベルの音



静かな冬の夜、
雪の街に響くのは、
冷たい鐘の音。

貴方が眠る部屋の、
暗い窓を見上げれば、
薄暗く揺れる灯りが、
消え入りそうに震えています。

魂が穢れた私には、
貴方の笑顔は、眩し過ぎて。
凍えた手を、伸ばしたとしても、
その希望は、粉雪の様に、
指先で、溶けて消えてしまいます。

貴方の名前を呼んでも、
声は木枯らしにかき消され、
届かない想いだけが、
心の痛みとして、残ります。

遠く響く、哀しみの音が、
胸を締め付け、
心を裂いていきます。
それは救いではなく、
終焉を知らせる、ベルの音。

貴方の微笑みと温もりを、
手に出来たなら、と、
叶わぬ夢を見るだけの夜。

雪が降り続く中。
私は独り、
冬の冷たさに凍えながら、
終焉の響きを、
ただ、待ち続けるのです。


12/20/2024, 7:57:37 AM

寂しさ



私はずっと一人で、
この世に存在していた。
例え、寒さに震える冬でも。
寂しさを感じた事など、
一度も無かった。

孤独は、ただ背中に、
冬の冷たさを纏わせるだけ。
それが私にとって、
当たり前のことだったから。

でも、貴方と出会った。
隣に誰かが居るという事、
肩を寄せ合う喜びを知り、
冷たい手を包む温もりを覚えた。

しかし、貴方は去っていった。
その時、心にぽっかりと穴が空いた。
それは、木枯らしが吹き抜ける様な、
酷く冷たい、空虚な感覚。
それが、私が初めて知った、
「寂しさ」だった。

貴方の居ない冬は、冷たくて。
薪を焚べても、毛布に包まっても、
他の人に温もりを求めても、
私の心は、凍り付いたまま動かない。
まるで、氷の彫像の様に。

もしかしたら、この寂しさは、
正論ばかり振り翳して、
言葉の刃で、貴方を傷つけた事の、
罰なのかも、知れない。

それでも、私は私を抱き締める。
嘗て、貴方が私にくれた、
温もりを思い出しながら。
そっと、胸の中の想い出に、
暖かな明かりを灯すんだ。

今はただ、静かな冬の夜に一人。
この凍て付く寂しさを、
私はそっと包み込む。

12/19/2024, 9:38:32 AM

冬は一緒に



凍える空気が肌を裂く。
吐息さえも、
白く凍りそうな夜、
影を引きずる足音が、
闇の中へ消えていく。

私の隣には、
静かに火が爆ぜる暖炉の前で、
無邪気な笑顏で微笑む、
愛しい彼が居る。

君との辛い離別を経験し、
その想い出は見ない振りをして、
漸く手に入れた、
穏やかな温もり。

だが、私の心には、
君と過ごした冬が、
胸の奥に刺さったまま、
溶ける事も無く、痛み続ける。

言葉の刃が交わった、
あの絶望の日から。
暖炉の炎さえも、
すっかり凍て付いた、
私の心も、君の心も、
溶かす事は出来なかった。

「冬は一緒に居ようね。」
と、囁いた君の声は、
今や、空虚な残響でしかない。
手の中で溶けた約束は、
戻ることは無く、
指の隙間から零れ落ちた。

冬は一緒に。
その言葉を信じた、あの頃とは、
私に温もりをくれる相手は、
君から彼に、
変わってしまったが、
それでも、冬はやって来る。

白い雪が全てを覆うように、
君を忘れられるなら。
そして、彼との想い出を、
この上に、重ねる事が出来るなら。
苦手な冬も、悪くない。

12/18/2024, 6:47:38 AM

とりとめのない話



冬の夜、月の青い光が、
凍えるオレの心を、
更に冷たく蒼に染める。

隣に寝転ぶアナタは、
夢の世界へと、
半ば足を踏み入れながら、
オレのとりとめもない話に、
適当な相槌を返す。

オレは溜息交じりに、
大きく寝返りを打つ。
その気配に気づいたアナタは、
重たそうな瞼を、ほんの少し開けて、
少し乱暴だけど、何処か優しく、
オレの髪を撫でた。

その手の温もりが届く。
けれど、心の深い部分には、
触れてはくれない。
だけど、心の氷河は解けず、
静かに孤独が漂う。
それでも、この温もりは、
オレの身体を僅かに暖める。

オレは、ぽつぽつと語りかける。
語る言葉の端々に、
アナタへの想いと、切なさが混じる。
ずっと言えずにいた、
アナタへの憧れ、そして…恋慕。

きっと、言葉が届く事は無く、
届かせる心算もない。
だって、これは、
只の独り言だから。

次第にアナタの呼吸が深くなる。
寝息がリズムを刻み、
オレの声を覆い隠していく。

それでも、オレは、
とりとめのない話を、語り続ける。
無意味な言葉を、並べ立てる事で、
凍える心を、少しでも埋めたくて。

ふと、アナタの腕が動き、
ただ黙って、オレを抱き締めた。
何処か不器用なアナタが、
オレの心の奥に沈む孤独に、
そっと、触れようとしてくれる。
そんな気がした。

オレは静かに目を閉じた。
この冬の夜が、
永遠に続けばいいのに、と、
そんな、叶わない願いを、
胸に押し殺して。

12/17/2024, 6:15:23 AM

風邪



君の名前を呼ぶように、
喉が咳を吐く。
熱を帯びた息が、
深い溜息に変わって消えた。
何も、残さずに。

ベッドで布団に包まる。
熱だけが、孤独な私を抱き締める。
…お前は弱い。だから逃げたんだ。
そんな声なき声が、冷えた胸に軋む。

あの日、君と袂を分かってから、
私は、小さな傷さえも、
隠すようになった。
薬箱の中の薬瓶にに触れながら、
治療よりも、記憶を避けてしまう。

これは、ただの風邪だと、
自分に言い聞かせる。
だが、この熱は、どこか違う。
君が残した想い出の、
燃え殻なのか。

机の上に、風邪薬。
君の記憶を、薬と共に、
冷たい水で、無理矢理飲み下す。
二度と戻らない、
君の隣にいた日々。

風邪が治れば、
この胸の傷も消えるだろうか。
そんな浅ましいことを考え、
眠れぬ夜、静かな部屋に独り、
私は、溜息に似た咳をする。

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