霜月 朔(創作)

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風邪



君の名前を呼ぶように、
喉が咳を吐く。
熱を帯びた息が、
深い溜息に変わって消えた。
何も、残さずに。

ベッドで布団に包まる。
熱だけが、孤独な私を抱き締める。
…お前は弱い。だから逃げたんだ。
そんな声なき声が、冷えた胸に軋む。

あの日、君と袂を分かってから、
私は、小さな傷さえも、
隠すようになった。
薬箱の中の薬瓶にに触れながら、
治療よりも、記憶を避けてしまう。

これは、ただの風邪だと、
自分に言い聞かせる。
だが、この熱は、どこか違う。
君が残した想い出の、
燃え殻なのか。

机の上に、風邪薬。
君の記憶を、薬と共に、
冷たい水で、無理矢理飲み下す。
二度と戻らない、
君の隣にいた日々。

風邪が治れば、
この胸の傷も消えるだろうか。
そんな浅ましいことを考え、
眠れぬ夜、静かな部屋に独り、
私は、溜息に似た咳をする。

12/17/2024, 6:15:23 AM