霜月 朔(創作)

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12/16/2024, 6:55:57 AM

雪を待つ



冬の日。
空は、重い灰色の雲に覆われ、
身を切る様な北風が、
枯れ葉を巻き上げながら、
吹き抜けていきます。

ですが、貴方は、
厚手のコートを纏い、
子供の様な無邪気な瞳で、
空を見上げています。

雪を待つ、貴方の笑顔は、
冬の光のように温かく、
私には眩し過ぎて、
私は、胸に溢れる想いを押し殺し、
ただ静かに微笑む事しか出来ません。

雪を待つ、貴方と私。
私も雪を待ちます。
真白に降り積もる雪が、
罪の赤に塗れた、私の手と、
醜い黒に覆われた、私の心を、
雪の白い結晶が、
包み隠してくれるのではないか、と。

身勝手な願いを抱き、
貴方の隣に立ち、
私は、灰色の空を見上げます。

白く儚い雪が、ひらひらと、
空から舞い落ちてきます。
…私と貴方の夢を乗せて。

12/15/2024, 7:41:17 AM

イルミネーション



冬の街に灯る明かり。
冷たい風が頬を刺す中、
何処か温もりを感じる、
イルミネーション。

行き交う恋人たち。
手を繋ぐ家族。
微笑みながら、
足を止めるその姿に、
煌めく光の中に、
冬の街が息衝いている。

そんな街を、
俺は友達と歩いてた。
寒さに背中を丸め、
つい、早足になる。
だけど、不意に、
イルミネーションの光に惹かれ、
歩みが緩んだんだ。

その華やかな煌めきを、
目を細めて、見詰める君。
だけど、俺は。
イルミネーションの煌めきよりも、
君の瞳の輝きに、
目を奪われていたんだ。

隣に立つ君の手に、
俺の手が微かに触れる。
その瞬間、胸が高鳴る。
心臓が、音を立てて跳ね上がる。

だけど…俺には、
その手を握る勇気なんか、
何処にも無くって。
離れてしまうのは、寂しいのに、
どうしても、踏み出せないんだ。

触れた指先の温もりが、
冷えた空気の中で、
激しく、俺の心を揺さぶる。
冬の夜に華やかに煌めく、
イルミネーションよりも、
ずっと…鮮烈に。

12/14/2024, 6:44:52 AM

愛を注いで



夜の闇の底で一人、
貴方の名を呟く度、
乾き切った私の胸に、
冷たい影が落ちます。

孤独に震え、
血に塗れたこの手は、
何を抱けるのでしょうか。

貴方の声は、酷く遠くて。
耳を塞ぐのは自分だと知りながら、
尚も私は暗闇に縋るのです。

貴方の瞳に映るのは、
貴方の温もりを求めた、
…浅ましい私の影。

愛を注いで、と、
貴方に願う度に、
溢れる筈の温もりが、
冷たい涙の雨となるのです。

貴方が私の全てに、
触れてはくれないのは、
この罪深い心の所為ですか?

崩れた瓦礫のような感情が、
胸の中で音もなく崩れ落ちます。
貴方の全てが欲しい…。
私の欲望が、黒く渦巻き、
私を支配します。

心も身体も魂も、
貴方の全て私のものにして、
その吐息の一欠片さえ、
奪い尽くします。

それでも、願ってしまいます。
愛を注いで、と。
貴方を殺めようとしたこの手で、
貴方を求めてしまう。
浅はかな愚かさと、愛と狂気の間で。

夜が更けても、夜が明けても、
貴方の声は届きません。
愛を注ぐ器を失った私には、
貴方から消えていく温もりが、
最期の記憶になるのでしょう。


12/13/2024, 7:10:49 AM

心と心




私には、心が無い。
ずっと、そう思ってた。
人の気持ちも分からず、
自分の気持ちさえ、霧の中。

そんな私に、
心を教えてくれた貴方。
初めての友。
そして…特別な人。

私にとって、大切な貴方。
だからきっと、貴方にとっても
私は、特別な存在だと思ってた。

けれど、貴方は違った。
ある日、笑顔でこう言ったんだ。
「彼と仲良くなれると思います。」
そして彼を、私に紹介した。

心と心がすれ違う。
私の心は、貴方を想っていたのに、
貴方にとって私は、
ただの友達の一人だったんだ。

ずっと無い筈だった私の心。
それが、痛みを覚えた。
もし、貴方が私に、
心を教えてくれなかったら、
私はこの痛みを知らずに済んだのに。

貴方は、喜んでくれた。
私と彼が親しくなった事を。
貴方のその笑顔が、
私に新しい苦しみを教えたんだ。

心と心の渦の中で、
私は彼を愛してみせる。
貴方のくれた心で、精一杯。

だから、せめて、
恋仲になった私達を見て、
貴方の心に、
小さな波紋が生まれますように。

12/12/2024, 9:03:09 AM


何でもないフリ




君はとても幸せそうに、
柔らかな笑みを、
浮かべるようになった。

小さい頃から、
君と俺は友達で、
まるで兄弟のように、
ずっと側にいた。

君は子供の頃から、
俺を頼ってくれてた。
だから、俺は君にとって、
一番の理解者だと信じてた。

だけど、大人になった君には、
大切な人ができた。
君に寄り添う、
俺の知らない男――
…君の恋人。

その姿を見て、
俺は心から、嬉しくて。
でも、その喜びに、
ほんの少しだけ、
針が刺す様な痛みが混じるんだ。

恋人と手を繋ぎ、
幸せそうに微笑む君。
俺は、何でもないフリをして、
余裕の笑みを浮かべる。
「俺は『兄貴』みたいな存在だから、
いつでも頼ってよ。」と。

分かってる。
本当は俺は、
『兄貴』なんかじゃなくて、
『恋人』になりたかったんだ。
だけど、この気持ちは、
もう君には、絶対言えないんだ。

いずれ来るだろう、
純白の衣装を纏った、
君にとって最高に幸せな日に、
俺は、何でもないフリをして、
微笑むことができるかな?

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