冬は一緒に
凍える空気が肌を裂く。
吐息さえも、
白く凍りそうな夜、
影を引きずる足音が、
闇の中へ消えていく。
私の隣には、
静かに火が爆ぜる暖炉の前で、
無邪気な笑顏で微笑む、
愛しい彼が居る。
君との辛い離別を経験し、
その想い出は見ない振りをして、
漸く手に入れた、
穏やかな温もり。
だが、私の心には、
君と過ごした冬が、
胸の奥に刺さったまま、
溶ける事も無く、痛み続ける。
言葉の刃が交わった、
あの絶望の日から。
暖炉の炎さえも、
すっかり凍て付いた、
私の心も、君の心も、
溶かす事は出来なかった。
「冬は一緒に居ようね。」
と、囁いた君の声は、
今や、空虚な残響でしかない。
手の中で溶けた約束は、
戻ることは無く、
指の隙間から零れ落ちた。
冬は一緒に。
その言葉を信じた、あの頃とは、
私に温もりをくれる相手は、
君から彼に、
変わってしまったが、
それでも、冬はやって来る。
白い雪が全てを覆うように、
君を忘れられるなら。
そして、彼との想い出を、
この上に、重ねる事が出来るなら。
苦手な冬も、悪くない。
とりとめのない話
冬の夜、月の青い光が、
凍えるオレの心を、
更に冷たく蒼に染める。
隣に寝転ぶアナタは、
夢の世界へと、
半ば足を踏み入れながら、
オレのとりとめもない話に、
適当な相槌を返す。
オレは溜息交じりに、
大きく寝返りを打つ。
その気配に気づいたアナタは、
重たそうな瞼を、ほんの少し開けて、
少し乱暴だけど、何処か優しく、
オレの髪を撫でた。
その手の温もりが届く。
けれど、心の深い部分には、
触れてはくれない。
だけど、心の氷河は解けず、
静かに孤独が漂う。
それでも、この温もりは、
オレの身体を僅かに暖める。
オレは、ぽつぽつと語りかける。
語る言葉の端々に、
アナタへの想いと、切なさが混じる。
ずっと言えずにいた、
アナタへの憧れ、そして…恋慕。
きっと、言葉が届く事は無く、
届かせる心算もない。
だって、これは、
只の独り言だから。
次第にアナタの呼吸が深くなる。
寝息がリズムを刻み、
オレの声を覆い隠していく。
それでも、オレは、
とりとめのない話を、語り続ける。
無意味な言葉を、並べ立てる事で、
凍える心を、少しでも埋めたくて。
ふと、アナタの腕が動き、
ただ黙って、オレを抱き締めた。
何処か不器用なアナタが、
オレの心の奥に沈む孤独に、
そっと、触れようとしてくれる。
そんな気がした。
オレは静かに目を閉じた。
この冬の夜が、
永遠に続けばいいのに、と、
そんな、叶わない願いを、
胸に押し殺して。
風邪
君の名前を呼ぶように、
喉が咳を吐く。
熱を帯びた息が、
深い溜息に変わって消えた。
何も、残さずに。
ベッドで布団に包まる。
熱だけが、孤独な私を抱き締める。
…お前は弱い。だから逃げたんだ。
そんな声なき声が、冷えた胸に軋む。
あの日、君と袂を分かってから、
私は、小さな傷さえも、
隠すようになった。
薬箱の中の薬瓶にに触れながら、
治療よりも、記憶を避けてしまう。
これは、ただの風邪だと、
自分に言い聞かせる。
だが、この熱は、どこか違う。
君が残した想い出の、
燃え殻なのか。
机の上に、風邪薬。
君の記憶を、薬と共に、
冷たい水で、無理矢理飲み下す。
二度と戻らない、
君の隣にいた日々。
風邪が治れば、
この胸の傷も消えるだろうか。
そんな浅ましいことを考え、
眠れぬ夜、静かな部屋に独り、
私は、溜息に似た咳をする。
雪を待つ
冬の日。
空は、重い灰色の雲に覆われ、
身を切る様な北風が、
枯れ葉を巻き上げながら、
吹き抜けていきます。
ですが、貴方は、
厚手のコートを纏い、
子供の様な無邪気な瞳で、
空を見上げています。
雪を待つ、貴方の笑顔は、
冬の光のように温かく、
私には眩し過ぎて、
私は、胸に溢れる想いを押し殺し、
ただ静かに微笑む事しか出来ません。
雪を待つ、貴方と私。
私も雪を待ちます。
真白に降り積もる雪が、
罪の赤に塗れた、私の手と、
醜い黒に覆われた、私の心を、
雪の白い結晶が、
包み隠してくれるのではないか、と。
身勝手な願いを抱き、
貴方の隣に立ち、
私は、灰色の空を見上げます。
白く儚い雪が、ひらひらと、
空から舞い落ちてきます。
…私と貴方の夢を乗せて。
イルミネーション
冬の街に灯る明かり。
冷たい風が頬を刺す中、
何処か温もりを感じる、
イルミネーション。
行き交う恋人たち。
手を繋ぐ家族。
微笑みながら、
足を止めるその姿に、
煌めく光の中に、
冬の街が息衝いている。
そんな街を、
俺は友達と歩いてた。
寒さに背中を丸め、
つい、早足になる。
だけど、不意に、
イルミネーションの光に惹かれ、
歩みが緩んだんだ。
その華やかな煌めきを、
目を細めて、見詰める君。
だけど、俺は。
イルミネーションの煌めきよりも、
君の瞳の輝きに、
目を奪われていたんだ。
隣に立つ君の手に、
俺の手が微かに触れる。
その瞬間、胸が高鳴る。
心臓が、音を立てて跳ね上がる。
だけど…俺には、
その手を握る勇気なんか、
何処にも無くって。
離れてしまうのは、寂しいのに、
どうしても、踏み出せないんだ。
触れた指先の温もりが、
冷えた空気の中で、
激しく、俺の心を揺さぶる。
冬の夜に華やかに煌めく、
イルミネーションよりも、
ずっと…鮮烈に。