冬のはじまり
秋の終わりの休日。
街角のカフェで、
俺は一人、
静かな、カフェタイム。
温かなカフェラテに、
少し季節を先取りした、
真っ赤な苺のタルト。
今年の冬も、俺は一人。
街を行き交う、見ず知らずの、
幸せそうなカップルたちを、
窓越しに眺める。
職場では、同期も先輩も上司も、
この季節になると、
恋人自慢に花が咲く。
甘い笑顔で語る、
同僚達の姿を眺めて、
俺は心の中で、
そっと溜息を吐く。
カップを両手で包み込む。
カフェラテの温もりが、
少しずつ胸に染み渡る。
ラテアートのハート模様が、
俺の心にチクリと刺さる。
フォームミルクの泡の、
口元でそっと弾ける、
僅かに擽ったい。その感覚が、
俺の心の淋しさを、
ひとときだけ、
忘れさせてくれる。
温かくて、甘くて、
ほろ苦い、カフェラテは、
俺の凍えた心を、
そっと抱き締めてくれる。
冬のはじまりが、
静かに訪れた。
でも、冬が来たなら、
春の訪れも、
…きっと遠くない。
終わらせないで
私への未練を、
どうか、終わらせないで。
貴方と別れた今でも、
ずっと貴方を愛していた。
そして、貴方も、
私を想ってくれていたんだよね。
私への想いを、
まだ、終わらせないで。
「自分はお前には相応しくない」
そう言って離れて行った、貴方。
私の幸せを願うなら、
私の隣に貴方がいてくれることが、
何よりの幸せだったのに。
私への恋心を、
どうか、終わらせないで。
もし…今でも、
私を愛しているなら、
目を逸らさないで欲しい。
貴方に向けて伸ばしてるこの手を、
もう一度、握り返して。
二人で描く未来を、
ここで、終わらせないで。
貴方と私の物語を、
再び紡いでいきたいんだ。
過去に戻るわけじゃない。
今の私達にとって、居心地のいい、
懐かしくて新しい、恋物語。
だから、もう一度。
貴方の優しい声を聞かせて。
「君を愛してる」
…って。
愛情
月明かりだけが静かに揺れる、
暗く、冷たい部屋。
硬い床に横たわる貴方。
その胸に広がる赤。
私の手に染まった、愛の証。
鼓動は弱く、呼吸は儚く。
貴方の温もりが、
少しずつ冷たさへと、
変わっていきます。
私はこの口唇で、
貴方の最期の一息さえ、
貴方から奪い取ります。
これも…私の愛情なのですから。
貴方を、愛しています。
静かに閉じた瞳に、
そっと囁きかけます。
もう、貴方を苦しませるものは、
何もないのです。
この汚れた世界から、
貴方を解き放つ為に、
私はこの手で、
貴方に永遠を捧げたのですから。
貴方の心も、記憶も、
全て私だけのもの。
他の誰かなんて、必要ありません。
貴方の嘗ての恋人なんて、
私達の物語には、
初めから、存在しないのです。
直ぐに、貴方の隣へ行きます。
だから、二人きりの世界で、
また微笑み合いましょう。
こんな私を…。
人は狂っていると言うでしょうか?
これは愛情ではないと言うでしょうか?
けれど、私は知っています。
これは…真実の愛情なのだと。
ですが、もう。
何も恐れることはないのです。
貴方の全ては、
私だけのもの、なのですから。
…永遠に。
微熱
貴方に触れるたび、
私の心は微熱に浮かされる。
身体は火照り、思考は霞み、
現実さえ揺らいでしまいそう。
赦されない恋と知りながら、
理性を振り切るほどに、
私は貴方に溺れてしまう。
貴方の瞳は、私を通り越して、
別の誰かを映しているのは、
知っている。
それでも、今は、
私だけを見て欲しい。
私も、過去の影や後悔の鎖、
心に残り続ける未練の残滓さえ、
全て忘れたふりをして、今は、
貴方だけを見ているから。
幻の恋に心を奪われ、
微熱に身体を支配されて、
貴方を求める渇望が止まらない。
貴方の指が私に触れるたび、
心の静寂が炎へと変わる。
その指先は、私を溶かし、
思考さえ、壊していく。
胸を刺すこの痛みでさえ、
貴方への愛しさへと変わる。
例え、この微熱が、
赦されない夢だとしても、
例え、この微熱が、
全てが幻であったとしても、
この瞬間、この真実が、
貴方を救う光になればいい。
貴方に触れるたび、
私の心は微熱に浮かされる。
そしてまた、微熱の中で、
私は貴方を愛し続ける。
太陽の下で
太陽の下で、
私は影となります。
光が強ければ強いほど、
闇の輪郭は濃く、黒く、鋭く、
際立つのです。
陽の光に晒されるのは、
私には余りに不釣り合いで。
眩し過ぎるその光は、
私の身体を黒く埋め尽くし、
私の心の闇を暴くのです。
太陽の光は心を突き刺します。
太陽の下で生きるには、
罪と血に塗れた私は、
余りに穢れ過ぎているのです。
愛しい貴方は、
私にとっては太陽なのです。
弾ける笑顔、輝く瞳。
その光は眩しすぎて、
手を伸ばす事さえ、
烏滸がましいのです。
貴方という太陽の下で、
私は、闇に覆われた影となり、
静かに存在するだけ、です。
ですが。
私はそれでいいのです。
もし、影が光を愛することを、
赦されるなら、
それだけで、
私は満たされるのですから。
貴方という太陽の下で、
私は今日も影として、
独り、立ち尽くすのです。