霜月 朔(創作)

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7/31/2024, 5:05:57 PM

だから、一人でいたい。


こんな私にも。
嘗ては、愛した人が居た。

社会に馴染めず、人間関係に悩み、
心身共にボロボロだった、
そんな時。
私を救ってくれた人だった。

彼は私の全てになった。
こんなにも人を愛したのは、
初めての事だった。
彼の居ない人生など、
考えられなくなった。

だが。
彼と決定的な仲違いをした。
お互いに譲れなかった。
そして、彼と縁を切った。

私の心には。
ぽっかりと大きな穴が開いた。
何もする気になれなかった。
生きていても、意味が無いとさえ思った。

あんな想いは、二度としたくない。
誰かを好きになるから、
その相手を失った時に、
激しく傷付くのだ。

だから、一人でいたい。

もう二度と。
私が誰かを愛する事は、
無いだろう。


7/30/2024, 6:10:24 PM

澄んだ瞳


あの日、初めて会った君は、
とても澄んだ瞳をしていた。

人に裏切られて、騙されて、
社会から弾き出され、
誰かを頼る事も出来ず、
独りで生きてきた君。

人間としての最低限度の生活さえ、
出来ていなかったのだろう。
痩せ細り汚れ切った身体に、ボロボロの衣服。
君は、目を覆いたくなる程に、
見窄らしい姿をしていた。

それでも。
君の瞳の奥は…何処までも澄んでいたんだ。

こんな私が、
君にしてあげられる事は、
僅かかも知れない。

それでも。
こんなにも穢れ切って、
余りに醜い世の中で、
その澄んだ瞳が、汚れない様に。
その澄んだ瞳が、傷付かない様に。
その澄んだ瞳が、涙を零し続けない様に。
…そして、その澄んだ瞳を、
自らの意思で、
永遠に閉じてしまわない様に。

私が、君を護るよ。

7/29/2024, 5:34:10 PM

嵐が来ようとも



私はずっと独りでした。

家も無く、襤褸を纏い、
泥水を啜って生きている私を、
皆、見て見ぬ振りをしました。

だけど、貴方は違いました。
こんな私を連れ帰り、
食事を与え、服を与えて。
風呂に入れ、部屋を与えて。
教育を施し、仕事をくれました。

そして何より。
貴方は私に、
優しさと愛情を、
与えてくれたのです。

貴方が居てくれれば。
例え嵐が来ようとも、
怖くありません。

私はもう。
嵐の激しい風雨に、
怯えなくていいのです。

だって。
貴方の腕の中は、
何処よりも安全で、暖かくて、
安心できる場所なのですから。


7/28/2024, 3:57:56 PM

お祭り


今日は街の夏祭り。
夜には真っ暗になる街の広場も、
今夜は屋台の明かりが灯る。
沢山の見物客の声と祭囃子が、
祭りの夜を更に盛り上げてる。

だけどボクは。
部屋のベッドに寝転んで、
風に乗ってくる愉しげな声を、
聞いてる事しか出来ない。

ボクが元気だったら、
皆とお祭りに行けたんだろうな。
あーあ。
りんご飴食べて、盆踊りしたかったな。

そんな事を独り言ちてると、
不意に部屋のドアが開いて、
お祭りに行った筈の友達が入ってきた。

そして。
体調が悪いのだから、
これで我慢しなさい、と。
紫色の可愛いヨーヨーと、
大きくて真っ赤なりんご飴を、
説教付きでボクにくれた。

きっとコイツだって。
他の友達と、お祭りをもっと、
楽しみたかった筈なのに。
ボクの為に、途中で帰って来たんだ。

でも、ありがとうって、
素直に言えなくて。
ボクは、態とぶっきらぼうに、
病人にりんご飴とか、どうなんだよ。
と、文句を言って、
赤くなった目を隠す様に、
りんご飴に齧り付いた。

7/27/2024, 2:59:17 PM

神様が舞い降りてきて、こう言った。



ある日。
神様が舞い降りてきて、
こう言った。

『わたしの目には、
あなたは高価で尊い。
わたしはあなたを愛している。』

俺は思った。
…巫山戯るな、と。

そんな耳触りの良い事を、
それらしく言っておいて、
結局。何もしてはくれない。
神様の有り難い御言葉じゃ、
腹は膨れない。

それならいっそ、
悪魔の方がまだマシだ。
少なくとも彼奴等は、
むかつく綺麗事を言わない。

だから、俺は。
神に背き、悪魔を騙し、糧を得る。
…それで、いい。

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