突然の別れ
病気や寿命で人が亡くなる。
…これは仕方のないことだし。
事故や怪我でで人が亡くなる。
…これも避けようもない事もある。
戦争や飢えや疫病で人が亡くなる。
…悔しいけど、どうしようもない時もある。
だけど。
誰かに殺される。
それは、遠い世界の出来事だと思ってた。
先輩が殺された。
友達からそう聞いた時。
俺は全く信じられなかった。
だって、あんなに優しい先輩が、
誰かに殺されるなんて、ある訳ないって。
だけど。
先生まで、青ざめた顔をして、
先輩の訃報を告げた。
その瞬間。
俺の世界は暗転した。
突然の別れ。
受け入れられる筈もない。
だって、先輩は。
さっきまで、そこで笑ってたんだ。
俺と、下らない冗談を言ってたんだ。
俺は泣き叫んだ。
狂ったかと思われる程に。
だけど、幾ら泣いても叫んでも。
悲しみが癒える事は無かった。
あれから何年か経った。
俺は、至って普通に暮らしている。
だけど。俺は…。
未だに街中や人波の中に、
探してしまうんだ。
…未だ憧れ続けている、貴方の面影を。
恋物語
本屋へ行って、棚に並んでいる本を眺める。
そして、ふと。
人気の本を、何気なく手に取った。
何処か愛らしいカラーの装丁。
繊細で柔らかいイメージのタイトル。
ハッピーエンドの恋物語。
…読まなければ良かった。
幸せそうな物語の主人公とは対照的に、
俺の心は、どんよりとした灰色になる。
だって。
俺には、こんなハッピーエンドなんて、
訪れる筈もないから。
ずっと、ずっと、片想い。
君と俺は友達だけど、
君は俺を、恋愛対象としては、
見てはくれないだろうから。
俺が、現在進行形で書き綴っている恋物語は、
このまま、アンハッピーエンドなのかなって。
そう思うと。
ハッピーエンドの恋物語なんて、
もう、読みたくはないんだ。
真夜中
灯りの消えた暗い廊下を、
足音を殺し、一人歩いていきます。
遠慮がちに窓から差し込む、
青白い月明かりだけを頼りにして。
真夜中の静けさに、
まるで世界にたった一人で、
取り残された様な錯覚を感じ、
何処か不安になったにも拘らず、
灯りを灯そうとは、思いませんでした。
遠くから聞こえてくるのは、
夜行性の獣が獲物を求めている、
呻き声でしょうか?
それとも…。
真夜中は、
多くのものを闇で覆い隠します。
血生臭い行いも、犯罪行為も、
…人の醜さも。
真夜中の闇が、
私の過去の過ちも、後悔も、
叶う筈のない恋慕も、
いっそ、私自身さえ、
全て覆い隠してくれれば良いのに…と、
願わずにはいられませんでした。
愛あれば何でもできる?
私の中には、
私の知らない私が居て。
私は私が恐ろしいのです。
もう一人の私は。
愛する貴方を護る為なら、
真実に口を噤むことも、
親友を騙して素知らぬ顔で微笑む事も、
仲間の命を切り捨てる事さえ、
平気でしてきました。
そして。もう一人の私は。
愛する貴方を護る為なら、
友に刃を向ける事も、
神の教えに背く事も、
悪魔に魂を売り渡す事さえ、
平気で出来るでしょう。
…愛があれば何でもできる?
もし、貴方からそう問われれば、
私は困惑した顔で、首を横に振るでしょう。
…流石に、出来ない事もありますよ。
と。
ですが。
もう一人の私は、微笑みながら頷くでしょう。
…愛する貴方を殺める事以外なら
何でも出来ますよ。
と。
後悔
あの時。
私は、一時の怒りに駆り立てられ、
お前に別れを告げた。
お前の事なんか考えもせずに、
お前に酷い言葉を投げ付けた。
そして、私はお前の元を去った。
…後悔している。
お前の想いも考えも、二人の歴史も、
自分の中のお前への想いさえ、蔑ろにして、
お前との繋がりの全てを断ち切った事を。
そして、今も尚。
後悔を抱えたまま、
お前に近付く事も、お前を見る事も、
お前の事を思い出す事さえ、
避け続けている。
あの日。
君は、私に激しい怒りをぶち撒け、
私に別れを告げた。
一方的に私を責める君に、
私は、何も言う事が出来なかった。
そして、君は私の元を去っていった。
…後悔してる。
未練がましいのは、格好悪いからと、
君を手放したくないと、縋る事もせずに、
私の元から去りゆく君を、黙って見送った事を。
そして、今でも。
後悔を抱えたまま、
君に声を掛ける事も、君に近付く事も、
君をそっと見つめる事さえ、
出来ずにいるんだ。