霜月 朔(創作)

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5/14/2024, 5:01:59 PM

風に身をまかせ


何だか、上手くいかなくって。
酷く息苦しくなって、
一人、街を飛び出した。

そのまま、高い丘に登って、
断崖絶壁の崖から、街を見下ろすと、
俺の住む街は、とても小さく見えた。
俺を苦しめてる日常って、
こんなにちっぽけなんだ、って。
そう思ったら、何だか涙が出てきた。

爽やかな風が吹き抜ける。
風が俺の服を、前髪を。
足元の草花さえ、分け隔てなく揺らす。

全て投げ出して、風に身をまかせ、
遠くに飛んでいってしまいたい。
そんな衝動に駆られて。
そのまま、足を踏み出そうとして、
…何とか踏み止まった。

きっと何時の日にか。
風が幸せを運んできてくれるから。

そう思ったら、何だか切なくて。
でも、もうちょっとだけ、
頑張ってみようって、思えた。


5/13/2024, 6:22:29 PM

失われた時間


生まれ育った国から逃げる為に、
私は『私』を殺しました。

今迄、生きてきて築き上げてきた、
キャリアも、人間関係も。
全て…無に帰しました。

何も持たず、身体一つで、
慣れぬ文化の他国で、
過去を忘れた振りをして、
姿を変え、職を変え、
生きていかねばなりません。

『私』が死んだ事で、
失われた時間は、
戻りは、しません。

ですが。
新しい『私』として、
胸を張って生きていけるのならば。
何時の日にか、きっと、
失われた時間以上に大切なものを、
手に出来るに違いない。
…そう信じています。

5/12/2024, 3:20:19 PM

子供のままで



季節は何度も巡り、
気が付けば、大人になり。
背負う物も、守るものも増え。

肉体は確かに大人になったけれど。
心の中には、まだまだ幼い所もあって。
でも。
毎日を必死に生きているうちに、
残酷にも、時間だけは流れてしまい。

大人になった『私』という、
器の中に居るのは、
大人のふりをする幼いままの『僕』。
だけど。私は。
必死に演じるのです。
…大人である、私を。

静かな夜。
緩やかな時が過ぎる、一日の終わり。
貴方と私のだけの時間。
私は、そっと貴方に語り掛けます。

お願いします。
せめて、貴方の前では、
子供のままで、居させて下さい。
…と。

5/11/2024, 5:56:43 PM

愛を叫ぶ。



もう、終わりにしましょう。
心配しなくても、大丈夫。
私が全てを、壊してあげます。

ああ、有難う。
最期まで、君に迷惑をかけて、
本当に申し訳ない。

貴方への御恩返しになるのならば、
貴方が救った、この私の手で、
貴方の全てを終わらせましょう。

私から流れ出る血は、
私の罪の証。苦しみの記録。
そして、君への謝罪の証、だ。

私も直ぐに、貴方の後を追いますから。
…では、最期に。
何か言いたい事は、ありますか?

ならば、断末魔の叫びの代わりに、
…愛を叫ぶ。
と、するかな。

5/10/2024, 1:42:52 PM

モンシロチョウ


俺の故郷の近くの街には、
亡くなった人の魂は、
蝶になって帰ってくる…って伝説がある。

春、最初に見た蝶が、白い蝶だと、
その人の家族に不幸があるとか。
蝶は死と再生のシンボルだとか。
麗らかな春に、咲き乱れる花々の間を、
ひらひらと舞う蝶の長閑さとは、
どうにも結びつかない、
暗い話や伝説を多く持つ蝶だが。
それでも、人を惹き付けずにはいられない、
不思議な存在でもある。

それでも。
少しだけ、穏やかな春の日に、
ひらひらと舞うモンシロチョウに目を留め、
僅かに微笑むお前を見て。

俺も道半ばで、戦場で斃れたら、
蝶になって戻ってくるから。
そん時は、邪険にしてくれるなよ、と。
真面目なお前にしては珍しく、
モンシロチョウの存在に、
仕事の手を休めるお前の背中を見て、
俺は、そっと呟いた。





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