忘れられない、いつまでも。
折角のいい天気の休日なのに、
何だか、外に出掛ける気にはなれなくて。
最近嵌っている、紅茶でも淹れて、
偶には、ゆっくり読書でもしようかな。
そんな事を思って、何気なく手にとった本。
お気に入りの本だったけど、
もう長い間、開いてなかったな。
そう思って、パラパラとページを捲る。
本のページとページの間に、
一枚のメモが、挟まってた。
メモには、懐かしい彼の書いた文字。
それを見た途端、
私の胸はズキッと痛んだ。
私のお気に入りの本。
彼にも、貸した事があったな。
それは。
まだ、彼と私が恋人だった頃…。
彼はいつも私の隣で、
優しく微笑んでくれていた。
そんな、優しく、あたたかい記憶。
私が、どんなに戻りたいと願っても、
もう…戻れない、懐かしい日々。
彼は、二度と。
私を見てはくれないだろうけど。
だけど、彼への想いは、
忘れられない、いつまでも。
一年後
来年もこの桜が見れたらいいな、とか、
来年のクリスマスは、
プレゼントに何が欲しい、とか、
お前は、何の何気なく、平然と言う。
だが、俺には。
『来年』なんて、気軽に言えはしない。
来年どころか、数日後には。
戦場で斃れ、物言わぬ骸となり、
地面に転がっているかもしれない。
絶望の余り精神を病んで、
地下牢に閉じ込められているかもしれない。
誰かに襲われ、大きな怪我を負って、
死の淵を彷徨っているかもしれない。
生きる為だからと、自己正当化し、
犯罪に手を染めているかもしれない。
未来に希望なんか、持てやしない。
一年後を想像すると、
何時でも、最悪の事態ばかり、
頭の中を埋め尽くす。
だが。
俺が、一番怖いのは。
一年後。
お前の隣に別の男が立っている事、だとは。
…心底情けない。
初恋の日
お前の墓に花を手向けるのが、
いつの間にか、俺の日課になっていた。
お前の墓の前で、
俺は、お前に語り掛ける。
嬉しい事だけじゃない。
辛い事も、悲しい事も、
全てお前に、ぶち撒ける。
お前が居なければ、
俺はきっと、野垂れ死んで居ただろう。
お前が居たから、今の俺があるんだ。
いつもお前に手向ける花は、
決して華やかなものばかりじゃない。
それでも。
お前の誕生日、お前の命日、
そして、俺とお前が出逢った日は、
少しだけ華やかな花を手向ける。
俺がお前と出逢った日。
それは、
俺の…初恋の日、だから。
明日世界が終わるなら
罪悪感に雁字搦めになって、
まるで寝付けない、夜中。
寝床から這い出し、外に出る。
今夜は厚い雲が空を覆い、
月も星も、その姿を隠していた。
だが、月も星も見えない夜に、
私は心の何処かでほっとした。
月の灯りも、星の煌めきも、
こんな私には、余りに眩し過ぎるから。
そんな、星も月も姿を隠す夜の闇が、
私の罪や愚かさや後悔や醜さも、
覆い隠してはくれないだろうか。
そんな自分勝手な事を思う自分に、
呆れ果て、深い溜息を吐く。
明日など、来なければ良いのに。
眠れぬ夜が訪れる度に、そう思う。
もし、明日世界が終わるなら、
今夜だけは、
この、過去からの罪悪感からも、
今日の絶望感からも、明日への焦燥からも、
全ての苦痛から目を背けて、
眠りに就く事が出来るだろうに。
だが。
もし、本当に、
明日世界が終わるなら。
その時は、彼奴に一言だけ伝えたい。
…私と出逢ってくれて、有難う。
と。
君と出逢って
俺は昔から何をやっても、
全然、駄目な人間で。
こんな俺なんか、
何の役にも立たないなって、思ってて。
本を沢山読んで、知識を蓄えても、
失敗するのを恐れて、何も出来なくて、
普段の生活や仕事に、生かせないし。
身体を鍛えて、筋力をつけても、
実際のトラブルに遭遇すると、
怖くて、身動ぎ一つ出来やしない。
ホントに弱い人間なんだ。
だけど、君と出逢って。
俺は、少しだけ強くなった。
仕事が出来て、スポーツ万能で。
コミニュケーション能力もあって、
先輩からも後輩からも一目置かれる。
そんな君に、俺は憧れて。
少しでも君に近付きたい。
少しでも君に相応しい人間になりたい。
…そう思ったら。
少しだけ勇気を出して、
チャレンジ出来る様になったんだ。
だけど、一つだけ。
俺には、君と出逢って、
とても怖くなった事があるんだ。
それは。
…君に嫌われること。
こんな俺って。
やっぱり、駄目な男だよね。