完全無欠のスカイマン!
スカイマンは、青空のパワーを使って、悪い怪獣を片っ端から葬っていく正義のヒーローさ!
さあ、今日もスカイマンが怪獣をミンチにするぞ!
ん?
どうしたのスカイマン?
どうして泣いているの?
怪獣を倒したくない?
そっか。じゃあ、しょうがないね。
スカイマンは処分して、新しいヒーローを用意しよう。
その名も、コスモマン!
コスモマンは、宇宙の暗黒エネルギーを使って、怪獣をブラックホールに葬るのさ!
さあ、コスモマン!
最初の仕事だ!
スカイマンを仕留めよう!
夜空に浮かぶ月があまりに綺麗だったので、なんとなく手を振ってみたのだが、なんと月が手を振り返してくれた。月の側面にぶっとい腕が生えて、私に向けて、その腕を振ってくる。それからほどなくして、呆気にとられていた私の脳内に、野太い声が響いた。
「やあ、手を振ってくれてありがとう。君の名前を聞かせてくれ」
「え、あ、え、え、えぇ、あ、え」
私はコミュ障だったので、返事ができなかった。
「落ち着いて。いきなり話しかけて、動揺させてしまったね。すまない。今、君の脳内に直接語りかけているんだ。私は月だ」
「あ、え、あ、あああ、え、あ」
「ふふふ、落ち着いて。驚いちゃったね。ごめんね」
「あ、や、え、え、ええ、あ」
「うん、落ち着いてね。大丈夫だから、ね?」
「あ、え、あ、ええ、あ」
「落ち着いて、ほら、落ち着いて。あんまり落ち着いてっ言わない方がいいかな? 余計に落ち着かなくなるよね」
「あ、ああ、え、あ、え」
「ごめんね。そろそろ落ち着いてね。時間制限があるから。話す時間が無くなっちゃう」
「あ、ああ、ご、ごめんなさい」
「うん、大丈夫だよ。それじゃあ名前を教えてね」
「え、ああ、あ、あ、、ご、ごめ、あ、あ」
「うん、時間来ちゃう。せめて名前だけでも教えて」
「あ、ああ、あき、ああ、あ、あき」
「あきちゃん? あきって名前なの?」
「あ、いや、あ、ああ、いや、ごめ」
「ダメだ。時間来ちゃった。じゃあね」
月の声は聞こえなくなった。
それ以降、私は月を見るのが怖くなった。また話しかけられたらどうしよう。コミュ障で、ごめんなさい。
ずっと階段を登っていると、ここが何階建てだったか分からなくなったので、ふと、外を眺めたくなった。
随分昇ってきたので相当、高い位置にいるとは思う。ゴールはあと少しだと思う。
外を確認できる窓はないかと探したら、一つ扉を発見した。扉には注意書きで、こう書かれている。
――――この扉を開いてはならない。あなたは登り続けなければならない。
私は、その注意書きに酷く苛立ちを覚えた。ここには理由がないじゃないか。私が登り続けなければならない訳を書かないまま、どうして行動を指示してくるのか。
しかし、どうもその注意書きは黄色い板に太字で書かれており、無下にするには警告色が強すぎるものであった。
どうしたものかと悩んだ末、私は扉をノックしてみた。
「誰か入ってますか?」
返事があった。
「入っているのはお前だぞ」
さて、本日の授業ではペンギンについて学びますよォ! 田中くん! ペンギンには、ある大きな特徴があります! それは何でしょう!
あ、僕知ってますよ。ペンギンは鳥類だから翼があるのに、空を飛ぶことが出来ないってやつですよね。
ブブー! 不正解!
えっ? 違うんですか。
はい。田中くん、私が言おうとした答えを当ててしまったので不正解! くたばれ!
理不尽。
さて、田中くんのせいで今回の授業は、もうお終いです! 皆さん、田中くんに盛大な拍手をお願いします。
――――パチパチパチパチパチパチ
先生、僕、不登校になりますよ?
良い風景を見ると鼻がムズムズする。
なんだか落ち着かなくなって、鼻が無性にムズムズする。
古臭い匂いを嗅ぐと、目がしょぼしょぼする。
その場から脱したくなって、目を開けているのが辛くなる。
美味しいものを食べると、眉間にシワがよる。
「なんだコレ、うまっ!」って頭の中で驚嘆して、眉間にシワをよせる。
嫌な気分になると、笑顔になる。
心臓がキュウと締め付けられて、笑顔を繕う。
楽しい時は笑顔になる。
言うまでもなく、笑顔になる。
月の下にいる着物の私は、団子を片手に笑顔。
この笑顔は間違いなく、あっちの笑顔だ。