夜空に浮かぶ月があまりに綺麗だったので、なんとなく手を振ってみたのだが、なんと月が手を振り返してくれた。月の側面にぶっとい腕が生えて、私に向けて、その腕を振ってくる。それからほどなくして、呆気にとられていた私の脳内に、野太い声が響いた。
「やあ、手を振ってくれてありがとう。君の名前を聞かせてくれ」
「え、あ、え、え、えぇ、あ、え」
私はコミュ障だったので、返事ができなかった。
「落ち着いて。いきなり話しかけて、動揺させてしまったね。すまない。今、君の脳内に直接語りかけているんだ。私は月だ」
「あ、え、あ、あああ、え、あ」
「ふふふ、落ち着いて。驚いちゃったね。ごめんね」
「あ、や、え、え、ええ、あ」
「うん、落ち着いてね。大丈夫だから、ね?」
「あ、え、あ、ええ、あ」
「落ち着いて、ほら、落ち着いて。あんまり落ち着いてっ言わない方がいいかな? 余計に落ち着かなくなるよね」
「あ、ああ、え、あ、え」
「ごめんね。そろそろ落ち着いてね。時間制限があるから。話す時間が無くなっちゃう」
「あ、ああ、ご、ごめんなさい」
「うん、大丈夫だよ。それじゃあ名前を教えてね」
「え、ああ、あ、あ、、ご、ごめ、あ、あ」
「うん、時間来ちゃう。せめて名前だけでも教えて」
「あ、ああ、あき、ああ、あ、あき」
「あきちゃん? あきって名前なの?」
「あ、いや、あ、ああ、いや、ごめ」
「ダメだ。時間来ちゃった。じゃあね」
月の声は聞こえなくなった。
それ以降、私は月を見るのが怖くなった。また話しかけられたらどうしよう。コミュ障で、ごめんなさい。
11/14/2023, 8:49:22 AM