さらさら
「ハチってほんと髪の毛さらさらだよな」
「?」
宿の部屋の中、私の髪をクシでといていたアイラが そう呟いた。
「さらさら……?それがどうかしたか?」
「ん、あ、いや、どうってわけじゃないんだけど、綺麗だなって」
アイラはそう笑ってみせる。
質問の意図がわからなかった。いや、本当に深い意味などない質問だったのかもしれない。しかし、意味のない質問をなぜするのかも分からなかった。
「そんなに深く考えすぎるなって。雑談みたいなものだ」
「ざつだん……」
私もざつだんをするべきだろうか悩む。ざつだん… ざつだん………
「さらさらは、他にもあるのか?」
「他?んーっと……」
少し考える素振りをしてからアイラは答える。
「砂糖とか、塩はさらさらかもな。あとは……砂とか?」
「そうか」
「うん」
「………」
「………」
………会話が終わってしまった。
「………っふは!」
…と、思った瞬間突然吹き出す。
「お前雑談下手くそだなー!」
「…?なぜ笑う?」
「いや、わるいわるい。ちょっと面白くてな」
「おもしろいのか」
「ああ」
そう笑っているアイラの髪が揺れ動き、私は気づいた。
「アイラ、見つけたぞ。さらさら」
「え?どこどこ?」
「お前の髪」
「え?………っはは!やっぱ面白いな、お前」
「?」
真面目に答えたつもりだったがアイラはまた「面白い」と言った。
彼と過ごして数週間、まだまだ理解できないことが 多いようだ。
ーさらさらー
No.5783
「宴だ宴ー!」
「……………」
とても騒がしい。祝いごとは城で何度参加したけど、こういう和風?みたいなのは初めて。宴会みたい。
社交パーティーとはやっぱり全然違う。少し苦手かもしれない。
少し遠くに目をやるとライトが知らない人達と楽しそうに踊っている。
(やっぱり久々の故郷だし、その国の人と過ごしたいわよね……)
正直人と喋るのは得意じゃないから、あそこの輪に入れる気がしない。
(……まあ、適当にご飯食べてればいいわよね)
そんなことを考えながら1番近くにあった魚料理を口に運ぶ。
「…………!美味しい…」
かなり美味しい。正直社交パーティーで食べた料理と遜色ないぐらい、いや、下手したらそれより美味しいかも。
「お口にあったなら幸いです」
「っ!」
横から声をかけられ驚く声の方向を向く。
そこには暗い深緑色の長髪の青年がいた。確か……
「アイラ……さん?」
「……俺は使用人なので、呼び捨てで構いません」
「そう……かしら?」
急に話しかけられ、何を話せばよいのか分からなくなる。
「あ………えっと……」
「!」
そんな私の様子に気づいたのか、アイラは私の少し前まで出てこちらに手を差し出す。
「良ければ、一緒に踊りませんか?楽しいですよ」
「え?でも、振りなんて……」
「大丈夫ですよ。決まった振りもルールもありませんから」
そう優しく微笑む彼の表情は、とても温かかった。
その表情がどこか彼女を思わせる。心が絆される。
まあ、少しくらいなら………
「じゃあ、踊ってくださる?」
踊ってみてもいいかもね。
ー踊りませんか?ー
ロコ・ローズ
静寂に包まれた部屋
ピシャン、と勢い良く襖を開け自室の布団へと飛び込む。
「〜〜〜っぷは!」
潜らせた頭を布団から出し息継ぎをする。ふかふかの布団は大好き!クタクタの体に染みる〜!
「…………………」
布団の上でゴロゴロと体を回しふかふかを堪能するけど、すぐに飽きて動きを止める。
お昼寝は大好き。ぽかぽか気持ちいいともっと良い。でも、この1人の時間はちょっと苦手。
1日が終わり、用がなくなり、1人きり。戦わなければおしゃべりもしない、『無』の時間。
静寂に包まれた部屋は、いつでも私を何者にもさせない。とってもつまんない。
誰かと話したい。誰かの料理が食べたい。
ー誰かと戦いたい。
だから明日を待ち望んで、私はそのまま眠りにつく。
ー静寂に包まれた部屋ー
ライト・オーサム
チクタクチクタクと時計が時を刻む音が、部屋の中で響く。
木でできた長机の上には屋敷の人達が食べ終えた料理の皿達が残されており、少し重い足取りでそれを片付ける。
「………………はぁ」
手を止めはしないが俺の口からはため息が漏れる。
(来なかったな………)
一番俺の料理を食べて欲しい人が、この食卓には現れなかった。
理由はすでに察しがついている。
と、言うのもこのような日は今日が初めてではない。
だから、“仕方がない”十分に理解している。
このような日、時折彼女は遅れて食卓に来てくれることもある。
ーボロボロの身体のまま。
そのたびに彼女は『遅れちゃってごめんね』と言う。
しかし俺が悲しいのは俺の料理を食べて貰えないことじゃない。
彼女が………俺よりも年下の幼馴染がそんな状況に陥るまで戦っていることだ。
このことを伝えても、彼女は“大丈夫だよ?”としか言ってくれない。
俺の思いは、届かないのだろうか?
ー届かぬ思いー
アイラ・ブルーム
「ん〜………」
「ねえリース。さっきっから空ばっかり見てどうしたの?」
すっかり辺りも暗くなり、もうそろそろ宿屋の部屋に戻ろうかななんて考えている時、リースの様子が気になり聞いてみる。
「え?あ、ごめんなさい。ここらへんは星が見えないのかなって………」
「星?」
確かにリースの言う通り空にはただただ果てしない黒だけが広がっている。
「ここらへんは建物が大井からかな〜。森とかならもっと見えると思うけど」
「そうですね………」
どことなくリースの顔がしょんぼりしている気がする。星が好きなのかな?………それなら。
「確かこの町って近くにカーネーションの花畑があったよね?」
「あ、はい。そうでしたね」
「少しそこまで散歩しに行こうよ!それで、一緒に星も見ちゃおう!」
そう言うとリースの顔はぱぁっと明るくなる。
「いいんですか?」
「うん!行こ行こ!」
シーマはリースのてを引いて町を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わあ………!」
暗くて多少視界は悪くなっているがそれでも視認するには十分な程にたくさんのカーネーションが広がる花畑へとついた。
「星はっと………あ」
空を見上げ確認してみれば、確かにそこには星があった。
………しかしそれはあまり多くなく、指で数えて事足りる程度だった。
「………………」
せっかく星を見ようと思ったのにこれではリースをがっかりさせてしまったのではないか。そう思いリースの方を見ると………
「綺麗………………」
驚くほどに輝いていた。
「不思議ですね。家でいつも見ていたときより数は少ないのに、とても輝いているように感じます」
シーマも不思議だった。がっかりされちゃうと思っていたのに。
「シーマと一緒に見ているせいでしょうか」
リースは冗談っぽくそう微笑み星を見上げていたけど、その言葉は、答えな気がした。
シーマも星は永い生の中で何度も見てきた。それでもリースと見る星は特別輝いて見てた。
だがもっとも輝いていたのは
リースから溢れ出ていた表情だった
それはまるで、星の様に輝いていた
リースが星を見ている横で、シーマはリースから目を離せないでいると、不意にリースがこちらを見た。
「どうかしましたか?」
「あ……ううん!なんでもないよ〜!」
慌てて目をはなし空を見上げる。
「そうですか?」
不思議そうな声を出しつつもリースも空へと視線を戻す。
「………ね、もう少しだけ見ていよっか」
もう少しだけ………………この星を………………
ー星が溢れるー
シーマ・ガーベレル