さらさら
「ハチってほんと髪の毛さらさらだよな」
「?」
宿の部屋の中、私の髪をクシでといていたアイラが そう呟いた。
「さらさら……?それがどうかしたか?」
「ん、あ、いや、どうってわけじゃないんだけど、綺麗だなって」
アイラはそう笑ってみせる。
質問の意図がわからなかった。いや、本当に深い意味などない質問だったのかもしれない。しかし、意味のない質問をなぜするのかも分からなかった。
「そんなに深く考えすぎるなって。雑談みたいなものだ」
「ざつだん……」
私もざつだんをするべきだろうか悩む。ざつだん… ざつだん………
「さらさらは、他にもあるのか?」
「他?んーっと……」
少し考える素振りをしてからアイラは答える。
「砂糖とか、塩はさらさらかもな。あとは……砂とか?」
「そうか」
「うん」
「………」
「………」
………会話が終わってしまった。
「………っふは!」
…と、思った瞬間突然吹き出す。
「お前雑談下手くそだなー!」
「…?なぜ笑う?」
「いや、わるいわるい。ちょっと面白くてな」
「おもしろいのか」
「ああ」
そう笑っているアイラの髪が揺れ動き、私は気づいた。
「アイラ、見つけたぞ。さらさら」
「え?どこどこ?」
「お前の髪」
「え?………っはは!やっぱ面白いな、お前」
「?」
真面目に答えたつもりだったがアイラはまた「面白い」と言った。
彼と過ごして数週間、まだまだ理解できないことが 多いようだ。
ーさらさらー
No.5783
5/29/2025, 7:04:41 AM