Melody

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 「………何故、泣いてる?」

 「………っえ?」

 俺は突然ハチにそう言われ固まってしまう。

 「え、えっと………」

 「アイラは、涙は悲しいときに流すと言っていた。アイラは今悲しいのか?」

 「いや、これは………」

 「何が悲しいだ?私にはわからないから教えて欲しい。アイラが泣いているのは、気になる」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待て、待ってくれ!」

 ハチに畳み掛けられ俺は一旦話を止める。こりゃ何か勘違いしてそうだ。

 「えっと………あのな、俺は確かに泣くのは悲しいときって言ったが、人はそれ以外のときにもたくさん泣くんだ」

 「何故?」

 「なぜって言われると……それはもう生物的に仕方ないと言うか………とにかく!人は悲しいときだけじゃなくて嬉しいときとか、ほかにも泣くときがあるんだ」

 「………私は泣いたことが無いから、やはり理解ができない」

 「………………っ」

 その言葉は、俺の胸をチクチクと痛めつける。でも本当に痛んでいるのは俺ではなく、こいつだろう。

 「私はやはり………」

 「違う」

 ハチが紡ぎかけた言葉を食い気味に否定する。俺は、ハチにそんなことを思ってほしくない。

 「それだけは違う」

 ー自分が人間じゃないなんて

 「……きっとこれからハチも覚えて行くよ、悲しみの涙も、喜びの涙も」

 「………そうか」

 まだ、完全に納得したような雰囲気ではなかったが、それでもちゃんと、俺の言葉を受け止めてはくれたみたいだ。

 「………で、アイラは何で泣いていたんだ?嬉しいからか?」

 「あぁ、それは………」

 俺はずっと右手に持っていた包丁を少し上げてみせる。

 「……タマネギ、切ってた…」

 ……ハチもポカンとして首を傾げた。

 「………………たまねぎ?」


 ー涙の理由ー
  アイラ・ブルーム

9/27/2025, 11:07:04 AM