「ん〜………」
「ねえリース。さっきっから空ばっかり見てどうしたの?」
すっかり辺りも暗くなり、もうそろそろ宿屋の部屋に戻ろうかななんて考えている時、リースの様子が気になり聞いてみる。
「え?あ、ごめんなさい。ここらへんは星が見えないのかなって………」
「星?」
確かにリースの言う通り空にはただただ果てしない黒だけが広がっている。
「ここらへんは建物が大井からかな〜。森とかならもっと見えると思うけど」
「そうですね………」
どことなくリースの顔がしょんぼりしている気がする。星が好きなのかな?………それなら。
「確かこの町って近くにカーネーションの花畑があったよね?」
「あ、はい。そうでしたね」
「少しそこまで散歩しに行こうよ!それで、一緒に星も見ちゃおう!」
そう言うとリースの顔はぱぁっと明るくなる。
「いいんですか?」
「うん!行こ行こ!」
シーマはリースのてを引いて町を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わあ………!」
暗くて多少視界は悪くなっているがそれでも視認するには十分な程にたくさんのカーネーションが広がる花畑へとついた。
「星はっと………あ」
空を見上げ確認してみれば、確かにそこには星があった。
………しかしそれはあまり多くなく、指で数えて事足りる程度だった。
「………………」
せっかく星を見ようと思ったのにこれではリースをがっかりさせてしまったのではないか。そう思いリースの方を見ると………
「綺麗………………」
驚くほどに輝いていた。
「不思議ですね。家でいつも見ていたときより数は少ないのに、とても輝いているように感じます」
シーマも不思議だった。がっかりされちゃうと思っていたのに。
「シーマと一緒に見ているせいでしょうか」
リースは冗談っぽくそう微笑み星を見上げていたけど、その言葉は、答えな気がした。
シーマも星は永い生の中で何度も見てきた。それでもリースと見る星は特別輝いて見てた。
だがもっとも輝いていたのは
リースから溢れ出ていた表情だった
それはまるで、星の様に輝いていた
リースが星を見ている横で、シーマはリースから目を離せないでいると、不意にリースがこちらを見た。
「どうかしましたか?」
「あ……ううん!なんでもないよ〜!」
慌てて目をはなし空を見上げる。
「そうですか?」
不思議そうな声を出しつつもリースも空へと視線を戻す。
「………ね、もう少しだけ見ていよっか」
もう少しだけ………………この星を………………
ー星が溢れるー
シーマ・ガーベレル
私たちみたいな戦場で戦う人は、いつもお花を身に着けている。
私たちの国では『ワスレナグサ』っていうのを使っていたらしい。
私たちの国は戦うことが多いからだって母様は言ってた。
でもどうしてなのかよくわからなかった。
だから、ロコに聞いてみた。ロコは物知りだから。
そしたらロコは
『たくさん人が死ぬからじゃないかしら』
って言った。
でもやっぱりどうしてしてかわからなくてもう一度聞いた。
そしたらこう答えられた。
『たくさん死んだ人の中に、自分もいたことを覚えていてほしかったんだと思うわ』
ーワスレナグサの花言葉は
『私を忘れないでください』だから。
って。
だから、これからは私もちゃんと覚えてあげなきゃって思った。
でも、ロコは
『どうせ家族が覚えてくれるんだから、あなたが覚えている必要はないのよ』
って言って来た。
でも、それじゃ家族がいない人は誰が覚えてあげられるの?って聞いたら。
『そしたらそこまでよ』
って言っていたロコの声は、少し冷たく、寂しそうにも聞こえた。
そのときのロコが一瞬だけ、なんだかそこに存在してすらいない亡霊のように見えた気がした。
ー勿忘草ー
ライト・オーサム
愛してほしかった
でも、愛してもらえなくて、悲しくて
だから、わたしみたいな人を減らしたくて
私はたくさん愛を捧げて来た
そしたら、私が生きていていいって思える気がして
上手くできていたかは分からないけど、それでもよかった
たとえ私の一人よがりだとしても
それでわたしみたいな人が少しでも減るならって
でも………
シーマと出会って、他にもたくさんの仲間から愛をもらった
とても優しくて、暖かくて、苦しかった
私は、誰かに愛してもらえるような人間じゃないのに
でも、苦しくても、今までよりもずっと満たされている気がした
………だから、この旅が終わったら、打ち明けよう
わたしのことを、みんなに
私の心を、すべて
私は、本当は価値の無い人間なんだって
ただ、誰かに価値があるって思われたかっただけなんだって
嫌われるかもしれない
うざがられるかもしれない
………不思議とそんな心配が出てこない
きっと大丈夫
だから、向かっていこう
ーこの旅路の果てに
ー旅路の果てにー
リース・リリィーナ
どうして自分には家がないのでしょうか。
ー記憶がなければ帰る場所も分からない。
どうして自分は何日もご飯お食べなくても死なないのでしょうか。
ーお腹は食べ物を求めて鳴り続けるのに。
何も、分かっていない。
でも、今日もなんだかんだ生きています。
どうしてかなんて分からないけど、生きてます。
まあ自分、ポジティブなんで!
どうしてなんて、どうでもいいですよね。
………ちょっと語彙があやしいですかね?
ーどうしてー
フルル・リコリス
「はやくはやくー!」
「ま、待ってください……」
私達は家の近くにある草原を走っていた。
心地良い風を全身で感じながら私はサクラの大木がある場所まで行き、そこで止まった。
その後ろからは息を切らしながら私の幼馴染が追いついて来た。
「は、速いですよ………」
「えへへ♪ごめんごめん♪」
そう軽く返しながら、私はサクラの大木を見上げた。
「やっぱり今日が一番綺麗だよね。このサクラ」
「そうですね。俺もそう思います」
この日は毎年決まってこの木の下で1日中自由に過ごしていた。
サクラの花びらは今も少しずつ散り続けているが、やっぱりその姿も綺麗だ。
「………………」
舞い散るサクラの花びらの中で、隣りにいた幼馴染の彼がどこか、さみしげな表情をしていた気がした。
「大丈夫?」
「え?えっと………」
最初は驚いたようだったが、しばらく黙った後、小さく口を開き言った。
「また、来年も一緒に見たいなって……」
その言葉が、なんとなく『祈り』な様な気がした。子供が明日何をして遊ぶのかを決める様な言葉だが、本当にできるのかという不安が伝わってくる………気がした。
正直、どうしてそんな風になってるのかは分からなかった。でも………
「大丈夫!絶対、ぜーたい見れるよ!約束する!」
不安にさせたくなくて、そう言った。
「………ライト」
また少しさみしげな表情をしていたが、すぐに顔を軽く振った後、頷いてくれた。
「はい!また来年のこの日も………ライトの誕生日にも、一緒にこのサクラを見に来ましょう!」
「うん!」
ー君と一緒にー
ライト・オーサム