ミキミヤ

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10/26/2024, 11:38:18 AM

朝目覚めてリビングに行くと、テーブルの上に小さなメッセージカードが置かれているのを見つけた。

『お誕生日おめでとう』

そういえば今日は私の誕生日だったな、と思い出す。
メッセージカードの字は、一緒に住む彼のもの。彼は毎年こうしてカードをくれる。直接渡してくれる年もあったけど、今年は彼が仕事で早くに出かけてしまったからこういう形になったのだろう。
カードの縁では、小鳥がリボンを咥えて飛んでいる。カードの模様も毎年違って、私を楽しませてくれる。
私は、カードの縁を指で撫でながら、ひとり口元を緩めた。もう私は30歳をすぎて、自分では素直に年を取るのを喜べなくなってきた。でも、彼がこうして祝ってくれると、年を取るのも悪くないと思えてくるから不思議だ。今日の仕事も頑張れそう。私は明るい気持ちで朝食の準備に取りかかった。



誕生日だからって仕事が楽になるわけはなく、1日いつも通りに仕事をして、2人で住む部屋へやっと帰り着いた。

「ただいまー」
「おかえりー!」

玄関を開けて声をかければ、先に帰っていた彼の声がすぐに返ってきた。
パタパタと足音がして、彼が出迎えてくれる。

「お誕生日おめでとう!」

ハグをしながら彼が言ってくれた。
仕事で無意識に張り詰めていた心がふんわり和らいだ。

「ありがとう」
「えへへ、やっぱり直接言えると嬉しいね!」

私がお礼を言うと、彼はキラキラの笑顔で返してくれた。

「今日の夕食はごちそうだよ!」

私よりもルンルンな様子で彼が言って、リビングに戻って行く。

私が生まれたことを私以上に喜んで、お祝いの言葉を欠かさずくれる人がいるのって、すごく幸せなことだなあ。
彼の背中を追いかけながら、私は幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。

10/25/2024, 1:30:17 PM

中1のとき、あなたと同じクラスだった。初めての部活、吹奏楽部の見学に行ったら、あなたもそこに居た。その姿を見て『私とこの子は友達になる』と直感した。運命を感じた気がした。一目惚れみたいな感じだった。
その直感は正しくて、私とあなたはすぐに友達になった。最初の頃は、好きなものが同じで仲良くなった。好きな教科が一緒だった。見ているアニメも一緒だったし、小学校の頃読んでいた本の傾向もよく似ていた。
高校生になって、違う学校に進学しても、友好は途絶えなかった。一時期、私が塞ぎ込んで引きこもりがちになったときも、あなたは変わらず友達で居てくれた。
大学生になって、お互いの悩みを深いところまで話すようになった。私達は、嫌に思うこともよく似ていることに気づいた。
大学を卒業して、それぞれ違う職種に就職した。お互いの似ているところだけじゃなく、違うところもたくさん見えるようになってきたけれど、その都度、歩み寄り、譲り合い、許し合って、一緒にいた。

あの出会いから20年弱経った。もう人生の半分以上、私とあなたは友達だ。
たぶん、そうなる運命だったんだと思う。でも、お互いに友達でいるために努力をしてきたから今があるんだとも思う。
私達は、運命だけじゃない糸で繋がっている。

いつか2人ともおばあちゃんになってしんじゃうときまで、ずっとこの糸を繋いでいたい。
あなたとなら、それができると私は信じている。

10/24/2024, 12:27:11 PM

僕と君は、この世界で2人だけの魔法使いだった。
僕らはふたりとも、他の人間は持たない金色の眼と銀色の髪を持って生まれた。
僕はあらゆるものを壊す魔法を、君はあらゆるものを癒す魔法を得意とした。
僕らはまだほんの赤ん坊の頃に捨てられ、孤児院で育った。僕らの姿は、かつてこの世界を滅ぼそうとしたたった1人の魔法使いとよく似ていたからだ。
周りの奴らは、僕らを気味悪がった。食事抜きもよくあること、鞭で打たれたり、階段から突き落とされたりもしょっちゅうだった。
僕は、君以外の人間が大嫌いだった。だから、いつか必ずこの世界を壊してやると決めた。
図書館に忍び込み、文献を読み漁った。独自に理論を組み立て、世界を壊す為の知識をため込んだ。
そうして、魔力を注ぎ込むと全世界に大地震を引き起こし嵐を呼ぶことができる場所を発見した。

僕は1年前、君を連れて、そこへ行く旅に出た。
そしてついに今、そこに辿り着こうとしている。

「行かないでくれ」と、君は言った。

ずたぼろの格好で、痩せ細った身体で、僕を引き止めようと必死に僕の腕に縋った。
君はどうしてそんなになってまで、この世界を庇うんだ。僕は君がこの旅の道中、人助けをしているのを何度も見た。一時は感謝されても、結局は気味悪がられて石を投げられるのに。それがわかってても君は助けるんだ。僕が何度「行くな」と止めても、君は助けに駆け出してしまう。君は、人を助けずにはいられない人なんだ。君はあまりに優しすぎる。
僕は君のそういうところが、大好きで、大嫌いだった。

「僕は行くよ。優しい君を痛めつけるばかりのこの世界に価値なんてない。全部壊して、作り変えてやる」

僕は君の手を振りほどいた。君の周りを魔力の壁で箱型に囲う。これで、僕がこれから起こす破壊に君は巻き込まれない。
僕は踵を返して、目的地へ歩きだす。
目の前には崖。目的地はこの下の谷の底にある。

「行くなよ、やめてくれよ!おれは、今までと変わらない生活でいい。おまえとふたり一緒ならそれで充分なのに!」

魔力の壁を叩き叫ぶ君の声が聞こえた。
君は何もわかってない。今まで通りじゃ、僕が駄目なんだ。人を助けて傷つく君を、僕はこれ以上見たくないんだ。
僕は躊躇わず崖から飛び降りた。


フワリと風を纏って谷底に着地する。
目的の場所はすぐに見つかった。僕はついに辿り着いたのだ。
手をかざして、今ここに割ける全魔力を注ぎ込んだ。

大きな地鳴りがやってくる。遠くで雷が轟く。これから人をたくさん殺す災害の足音だ。
やっと、君を傷つけない世界がやってくる。
僕はひとり、口元に笑みが浮かぶのを止められなかった。

10/23/2024, 12:33:31 PM

どこまでも続く青い空。それを映す美しく凪いだ水面。そこに立ってる自分。

ここ最近良く見る夢の風景だ。
この世界では、あらゆるものが静止している。水面に立っている意識はあれど、私の存在はどこか曖昧で、世界の一部として溶け込んでいるような感覚だった。
たったひとりなのに、孤独感もない。あるのは、爽やかな開放感だけ。眠る前のことも思い出せず、私はただ、青い世界だけを見つめている。


電子音で目覚める。目に飛び込む灰色の天井。カーテンの閉められた薄暗い部屋。
スマホのアラームを止めて、重い身体を起き上がらせる。時刻は午前5時。
ひとまずカーテンを開ける。夢の中とは対照的に、どんよりとした曇り空が見えた。
梅雨の朝だ。今日も雨かな、とひとりごちる。
頭は締め付けられるように少し痛い。低気圧のせいだろうか。夢の中の開放感は嘘みたいだった。
部屋の電気を点けて、伸びをする。今日も1日やるしかない。小さく覚悟を決めて、1日の始まりを受け入れた。


昼休み、食事のために会社近くのカフェに訪れた。窓の外は、今朝の予想通り雨が降っている。
ため息が出た。夢のように晴れ渡ればいいのに、と思う。
午後のために、私はひとり、淡々と口に食べ物を入れていく。
食べ終わって、会計をして、店を出た。

傘を差して雨の中を歩く。
信号待ちの時、横断歩道の水溜りをボーっと見ながら、パタパタと傘に当たる雫が立てる音を聞いていたら、ふいにそれが止んだ。
傘を閉じながら空を見上げると、雲の隙間から日が差してきていた。
視線を下に戻せば、車道の信号が赤になって歩行者信号が青になるまでの間、一瞬、水溜りの水面が凪いで、雲間から現れた青空を映したのが見えた。

歩行者信号が青になって、私以外の人は歩き出した。青空を映した水面は乱されて、先ほどの青さは儚く消える。
それでも、その一瞬の奇跡的な青さは、私の目に焼きついていた。
それは私に、雲の向こうにはあの夢のような青空があることを、思い出させてくれた。
清々しさを胸に、私も歩き出した。

10/22/2024, 2:39:26 PM

10月のはじめ。
昔から冷え性の私は、朝晩が冷えるようになりジワジワと冬が近づいてくるこの時期の朝は、いつも少し憂鬱だった。


「おはよう、アキちゃん。あれっ、もう冬服なんだね」

毎日登下校を共にする幼馴染のカナちゃんは、開口一番少し驚いた顔でそう言った。

「おはよ、カナちゃん。そうだよ。だって最近朝晩寒いじゃん。私は衣替えの時期を待っていたのよ……」
「アキちゃんはほんと冷え性だねぇ」

腕を擦り震えるふりをしながら答えると、カナちゃんは苦笑した。
そんなカナちゃんはまだ夏服のスカートに長袖シャツといった感じだ。対する私は冬服で、ブレザーもきっちり着ている。
最近は、朝晩が少し冷えるようになって、夏服ではつらい季節がやってきたと私は感じていた。だから、衣替え移行期間初日の今日、バッチリ衣替えを完了してきたのである。

学校への道を2人並んで歩く。
先週末にあった小テストの話、昨日のテレビの話、好きな漫画の話、お互いの家族の話……とりとめのない話をしながら進んでいく。
毎日話していても、話題はなかなか尽きないもので、2人で歩く道は楽しい。
学校へ続く上り坂は、日当たりが良く、今の季節は心地良く感じる。
学校に近づくにつれて、同じ学校の生徒の姿が増えてきた。半袖だったり長袖だったり、夏服だったり冬服だったり、今朝は様々だけど、いつもと変わらず賑やかだった。

校門をくぐり、昇降口を入って、階段を上がる。2年生の階に着いたところで、クラスが違うカナちゃんとはおわかれだ。

「じゃあ、また放課後にね!」「うん、また!」

手を軽く振ってそれぞれの教室へ。
クラスの友達と挨拶を交わしながら、自分の席に向かった。
私の席は窓際で、柔らかく日が差してきて暖かい。
私はブレザーを脱ぎ、椅子の背に掛けてから席に着いた。


チャイムが鳴って、朝のホームルームが始まる。
憂鬱は、いつの間にか消えていた。

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