僕と君は、この世界で2人だけの魔法使いだった。
僕らはふたりとも、他の人間は持たない金色の眼と銀色の髪を持って生まれた。
僕はあらゆるものを壊す魔法を、君はあらゆるものを癒す魔法を得意とした。
僕らはまだほんの赤ん坊の頃に捨てられ、孤児院で育った。僕らの姿は、かつてこの世界を滅ぼそうとしたたった1人の魔法使いとよく似ていたからだ。
周りの奴らは、僕らを気味悪がった。食事抜きもよくあること、鞭で打たれたり、階段から突き落とされたりもしょっちゅうだった。
僕は、君以外の人間が大嫌いだった。だから、いつか必ずこの世界を壊してやると決めた。
図書館に忍び込み、文献を読み漁った。独自に理論を組み立て、世界を壊す為の知識をため込んだ。
そうして、魔力を注ぎ込むと全世界に大地震を引き起こし嵐を呼ぶことができる場所を発見した。
僕は1年前、君を連れて、そこへ行く旅に出た。
そしてついに今、そこに辿り着こうとしている。
「行かないでくれ」と、君は言った。
ずたぼろの格好で、痩せ細った身体で、僕を引き止めようと必死に僕の腕に縋った。
君はどうしてそんなになってまで、この世界を庇うんだ。僕は君がこの旅の道中、人助けをしているのを何度も見た。一時は感謝されても、結局は気味悪がられて石を投げられるのに。それがわかってても君は助けるんだ。僕が何度「行くな」と止めても、君は助けに駆け出してしまう。君は、人を助けずにはいられない人なんだ。君はあまりに優しすぎる。
僕は君のそういうところが、大好きで、大嫌いだった。
「僕は行くよ。優しい君を痛めつけるばかりのこの世界に価値なんてない。全部壊して、作り変えてやる」
僕は君の手を振りほどいた。君の周りを魔力の壁で箱型に囲う。これで、僕がこれから起こす破壊に君は巻き込まれない。
僕は踵を返して、目的地へ歩きだす。
目の前には崖。目的地はこの下の谷の底にある。
「行くなよ、やめてくれよ!おれは、今までと変わらない生活でいい。おまえとふたり一緒ならそれで充分なのに!」
魔力の壁を叩き叫ぶ君の声が聞こえた。
君は何もわかってない。今まで通りじゃ、僕が駄目なんだ。人を助けて傷つく君を、僕はこれ以上見たくないんだ。
僕は躊躇わず崖から飛び降りた。
フワリと風を纏って谷底に着地する。
目的の場所はすぐに見つかった。僕はついに辿り着いたのだ。
手をかざして、今ここに割ける全魔力を注ぎ込んだ。
大きな地鳴りがやってくる。遠くで雷が轟く。これから人をたくさん殺す災害の足音だ。
やっと、君を傷つけない世界がやってくる。
僕はひとり、口元に笑みが浮かぶのを止められなかった。
10/24/2024, 12:27:11 PM