薇桜(引き継ぎ失敗しました💦)

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12/2/2025, 1:57:27 AM

 私は地位や名誉、評価には興味がないが、一応、最強と呼ばれている。そんな私に挑んでくる者も多い。まったくだ。驕れる者は久しからず。そういう者には、その者を思っての圧倒的な制裁を与える。そうすれば、恨みすら浮かばない。
 ある日、旅人である私は、凍てつく星空が有名な土地を訪れた。ここは絶景スポットだが、心霊スポットでもあり、また作物が育たない土地であったため、人は集まらない場所だ。あいにく今日は曇っており、星は見えないが。そんな場所で、私の前に現れた者がいた。また私に挑む驕った者かと思った。ところが、今までと違ったのは、その者の目だ。何の気力も感じられない目をしていた。
「あなたは何者?」
『私はあなただよ。』
妙に納得してしまった。心霊スポットだし、たしかに似ている目とも言える気がした。
「私に何か用?」
『助けてほしい。』
「どうすればいい?」
『世界を、壊して。』
「…どういうこと?」
『あなたはそれを、無情にやってきたじゃない。』
彼女は無表情のまま、巨大な魔力球を生み出した。
「え…?」
『こうやって、みんなの意志を砕いてきた。』
「…そうだね。」
私は同様の魔力球をかかげた。
「…そうしていないと、私の力の意味が、わからない…。」
2つの魔力がぶつかり合う。
 1番上には、頼る者がないこと、それが恐ろしかった。相手になる者も、切磋琢磨できる者も、苦悩を共有できる者も、誰も、何もない。私は、1人だ。
 魔力は弾け、雲が吹き飛んだ。
「!」
星空に照らされた彼女は、徐々に光の粒になっていく。
『私の、負けだよ…。』
彼女は笑っていた。違う、引き分けだ。
「…。」
『どう?少しは、絶望した?』
「しない。でも、感謝してる。」
まだ、上はあるし、私に向かってくる者に対してできることがあると思った。
『綺麗でしょ?ここは、あなたの心だよ。』
彼女は完全に消えてしまった。
「そんなわけ、ない。」
私はまた別の旅に踏み出した。

9/28/2025, 9:21:02 AM

 きつい修行を課した自覚はある。私は、『月夜の魔法使い』の名の下に、弟子に未熟さを残すわけにはいかないのだから。
「泣いたって、優しくしないよ。」
目の前の弟子は肩で嗚咽まじりに荒い呼吸をしている。
「…知ってる、よ。」
彼女は杖を構え直した。
「じゃあなんで、涙なんてこぼすの?」
「…泣いてない。」
どう見ても、泣いてる。
「悲しいから?きついから?怖いから?」
「泣いてないって!」
彼女は私に魔法を繰り出した。私は同じ魔法を同じ威力で相殺する。
「無力な自分に失望した?それとも、圧倒的な力の差に絶望した?」
「…どれも、ちがうよ。」
彼女は膝をついた。魔力切れだ。
「今日はここまでだね。」
私は杖を魔法空間にしまった。
「師匠。」
「何?」
「私は失望なんてしないよ。前向きなのは、取り柄なんだ。」
彼女はキッと私を見つめた。
「そう。」
そして視線を下げ、つぶやいた。
「…悔しいんだ。今の自分には、どうにもできないこと。」
たしかに、数日訓練したところでできるようになることではない。
「…そうだね。」
私は彼女の頭をなでた。
「やめてよ。…もっと、泣いちゃうじゃん。」
「…泣けばいいよ。泣くなとは言ってない。」
彼女は急に頭を上げた。そして、少し笑った。
「そうだね。」
彼女は泣いているのに笑っていた。涙が太陽の光に反射して光って、輝いて見えた。
私は今まで、何人もの弟子をとり、逃げ出した子も見てきた。彼女はきっと大成する。

9/3/2025, 5:48:41 AM

「ねぇ師匠!何読んでるのっ?」
私は師匠の読んでいる本をのぞき見た。年号が書いてあるのが見えたから、歴史書かな?
「…歴史書の見本だよ。」
「見本?」
師匠はふぅと息を吐いた。
「そう。これはまだ出版されていないものだよ。」
「なんでそんなものを師匠が持ってるの?」
「添削を依頼されたんだ。」
彼女は、私の魔法の師匠であり、一緒に旅をしている。
「え?師匠って旅人なのに、なんでそんな依頼が来るの?」
「私はある程度魔法使いとして評価されているから、たまに国から直接依頼が来るんだよ。」
そういえば、初めて見た師匠の魔法は、初歩に分類される『物を浮かせる魔法』だったが、私のような素人から見ても洗練されているのがわかった。
「国からって、師匠、本当は偉い人なの⁈」
「さぁ…どうだろうね。」
彼女は地位に興味はないようだ。
「師匠は歴史にも詳しいの?」
「そう思う?」
「うん。よく、古代語の魔法職読んでない?」
「あぁ、うん、そうだね。うん、詳しいっていうかさ、知ってるって言う方が近いかも。」
師匠は本のある文を指差した。
「ここ、読んで。」
「⚪︎⚪︎歴××年、魔物の封印が解け、…このあたりの歴史は知ってるよ、有名じゃん。Sランク冒険者だったパールが討伐したんでしょ。」
彼女は微妙な顔でうなずいた。
「うん、一般的にはそう言われてるね。まぁ続きも読んで?」
「…パールは討伐に尽力した。?討伐、じゃないの?」
「うん、彼は“尽力”したんだよ。」
「じゃあ、討伐したのは?」
「彼の弟子だよ。」
彼女はページをめくった。私は続きの文を読む。
「パールの弟子であったシャルガレットは、彼の犠牲の上に勝利した。…なんか、意地悪な書き方だね。」
私は思ったことを口にした。
「…そうだね。事実、彼が自分を犠牲にして作った隙に、シャルガレットは撃ち込んだ。」
「そうだとしても、この書き方…。直した方がいいよ、師匠。」
彼女は悲しげな顔で続けた。
「パールは、人のために行動してきた偉大な冒険者だった。みんな彼が好きだったんだ。でも、弟子のシャルガレットは違った。実力はあったのに、有名になることの危険を恐れて、パールの影に隠れて生きていた。みんなに慕われていなかった。」
「そんな…。」
どうして?彼女だって、魔王討伐頑張ったんじゃないの?
「その後、彼女はパールを回復させなかったことでひどく言われた。」
「それは、どういうこと?」
「やられたパールを回復して生かすべきだったと周りは批判した。彼は、それほどまでに頼りにされていたんだ。」
パールが高く評価されていたのはわかるが、シャルガレットは悪いことはしていないのに。
「客観的事実はそんな感じかな。内情をもう少し話すと、パールの判断は正しかった。シャルガレットにとどめを刺すように言ったのは、パール自身だよ。彼の力では、魔物には敵わなかった。それを彼自身もわかっていたから、彼女に頼んだ。」
「じゃあ、シャルガレットの方が強いってこと?」
「…少なくとも、彼女は彼より強かったよ。」
「じゃあ、なんで彼女は有名じゃないの?」
「言ったとおり、みんなが彼女を好きじゃなかったからかな…。別に彼女も有名になることを望んではいないし。」
何かおかしい。シャルガレットが残らない歴史も、詳しく知ってる師匠も。
「さて、シャルガレットのフルネーム、知ってる?」
「知らないよ、シャルガレットも初めて聞いたよ。」
いきなりの質問にそう返せば、師匠はまた本を指差した。
「ついにここまで解読されたんだね。」
「シャルガレットについて…シャルガレット(アイシェル・シャルガレット)は幼少期からパールの弟子であり、史上最年少、女性初のSランク冒険者となる。しかし、貴族社会を好まず、この魔物討伐まで表に立つことはなかった。また、討伐後も数十年後の魔王討伐まで名前は出てこなかった。」
私はまたページをめくった。すると、パールと幼い頃のシャルガレットの写真が載っていた。
「大人になってからは、パールとの行動も減ったからねぇ。」
彼女はぽつりとそう言ったが、私は写真に釘付けで、聞き流していた。写真の少女は、ショートカットで少年のように見えるが、その整った顔つきは女性であることがわかる。
「ねぇこれ、師匠に、似てる…。」
切れ長の瞳にすっと通った鼻筋。一度そう思えば、そうとしか思えなくなってきて、私は何度も師匠と写真の少女を見比べた。
「見すぎ。」
「師匠って、名前、なんていうの?」
私は思わず聞いてしまった。
「いまさらで失礼な質問だね。」
「し、知ってる、けど…。」
やけに詳しかったのは。
「アイシェル、だよ。」
「ほ、本人⁈」
彼女はゆっくりうなずいた。いたずらが成功した子どもみたいな、そう、写真の通りの顔で。

8/15/2025, 8:48:38 AM

「アイシェル。」
盲目の弟子が深妙な声で私を呼んだ。
「何?」
私がなんてことないように返事をしたからか、弟子は少しムッとしたようだ。
「…わかってるんでしょ。」
「そうだね。」
「強大な魔力が近づいてくるよ。」
「まったくだ。身の程知らずだね。」
おそらく、弟子を狙う賊だろう。彼は、それなりの身分の嫡子だ。私は肩をすくめる。こういう仕草は、盲目の彼には見えていないのだろう。
「…討伐するの?」
「まさか。いつも通り逃げるよ。」
「…なんで捕えないの?」
「なんで捕える必要がある。」
私たちは極力音を立てずに移動する。手を引かずとも着いてくる彼は、さすがだ。
「僕は、魔法戦を知らない。」
「…君の魔力視が、どのくらいのものなのかわからないけど、そんなきれいなもんじゃないよ。」
「…僕は、見たい。知りたい。」
「…でも、君の見た景色に争いはなかったんでしょ。」
彼は、まれに少し未来を夢みたいに見ることができる。彼は、幸運にも争いのない時代に生まれてきた。
「…。それは、アイシェルが、力を使ったからじゃないの?」
思わず頬が緩んだ。彼は、賢い。
「私が見る景色は。」
私は魔法を放つ。遠くで悲鳴が聞こえてくる。
「邪魔が入らない世界。」
決して、きれいな世界ではない。
「君が望む景色と、夢に見る世界ではないんだよ。」
「すごい…。戦いにも、ならない。」
彼は、圧倒的強者としての私に、感服していた。
 君は、その目に、何を見た?その頭に、何を描いた?私は、君が欲するものを、与えられているだろうか。

8/10/2025, 12:30:19 AM

 敵の策略にはまり、仲間が捕えられてしまった。もしかしたら、傷つけられているかもしれない。
 おれはまっすぐ走った。
「おや、1人で乗り込んできたのですか。」
敵の大将と思われる不気味な風体の人物は、おれを見つけてそう言った。
「そんなわけあるか。みんながおれを行かせてくれたんだ。仲間はどこだ!」
「あの子をかえすわけにはいきません。あの子は危険すぎる。」
敵はいきなりおれを襲ってきた。
⁉︎
完璧に避けたつもりだった。それなのに、頬に走ったピリッとした痛み。敵は不敵に笑う。やられたままではいられるかっ!
「あなたの実力はこの程度ですか?」
おれの攻撃は全て当たらない。どうして?
「…まさか。」
よく考えればわかったはずだ。こいつの攻撃は、捕らわれた仲間のものに似ている。なるほど、普通に戦ってはおれは絶対に勝てない。こいつに勝てるのは、それこそ同じ属性で戦う仲間だけだ。じゃあおれができることは。
「何を!」
おれはねらいをやつの頭上に光る謎の球体に定めた。
「それが、仲間を苦しめているんだろ!」
「待て!」
やつは今までで1番強力そうな技を繰り出した。やばい。でも、早くあの玉を壊さないと!早く!
「よっしゃ!」
球体が弾けたと同時に、おれは防御の体制をとる。

その瞬間、風を感じた。

やつは吹き飛び壁に衝突した。風が吹いてきた方を見れば。数十メートル先に、捕らわれた仲間の姿があった。徐に立ち上がり、しっかりとした足取りでおれの方に向かってくる。
「おそいよレイメイ。」
彼女は静かに言った。足取りはしっかりしていたが、かなりやられているようだ。服がぼろぼろだった。
「わるい。相性が合わない。」
彼女は息を吐いた。
「それもそっか。」
「勝てるか?」
「もちろん。でも、強いよ。」
「共闘といこうか。」
おれたちは殺気が膨れ上がっている敵にねらいを定めた。

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