薇桜(引き継ぎ失敗しました💦)

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「アイシェル。」
盲目の弟子が深妙な声で私を呼んだ。
「何?」
私がなんてことないように返事をしたからか、弟子は少しムッとしたようだ。
「…わかってるんでしょ。」
「そうだね。」
「強大な魔力が近づいてくるよ。」
「まったくだ。身の程知らずだね。」
おそらく、弟子を狙う賊だろう。彼は、それなりの身分の嫡子だ。私は肩をすくめる。こういう仕草は、盲目の彼には見えていないのだろう。
「…討伐するの?」
「まさか。いつも通り逃げるよ。」
「…なんで捕えないの?」
「なんで捕える必要がある。」
私たちは極力音を立てずに移動する。手を引かずとも着いてくる彼は、さすがだ。
「僕は、魔法戦を知らない。」
「…君の魔力視が、どのくらいのものなのかわからないけど、そんなきれいなもんじゃないよ。」
「…僕は、見たい。知りたい。」
「…でも、君の見た景色に争いはなかったんでしょ。」
彼は、まれに少し未来を夢みたいに見ることができる。彼は、幸運にも争いのない時代に生まれてきた。
「…。それは、アイシェルが、力を使ったからじゃないの?」
思わず頬が緩んだ。彼は、賢い。
「私が見る景色は。」
私は魔法を放つ。遠くで悲鳴が聞こえてくる。
「邪魔が入らない世界。」
決して、きれいな世界ではない。
「君が望む景色と、夢に見る世界ではないんだよ。」
「すごい…。戦いにも、ならない。」
彼は、圧倒的強者としての私に、感服していた。
 君は、その目に、何を見た?その頭に、何を描いた?私は、君が欲するものを、与えられているだろうか。

8/15/2025, 8:48:38 AM