薇桜(引き継ぎ失敗しました💦)

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 きつい修行を課した自覚はある。私は、『月夜の魔法使い』の名の下に、弟子に未熟さを残すわけにはいかないのだから。
「泣いたって、優しくしないよ。」
目の前の弟子は肩で嗚咽まじりに荒い呼吸をしている。
「…知ってる、よ。」
彼女は杖を構え直した。
「じゃあなんで、涙なんてこぼすの?」
「…泣いてない。」
どう見ても、泣いてる。
「悲しいから?きついから?怖いから?」
「泣いてないって!」
彼女は私に魔法を繰り出した。私は同じ魔法を同じ威力で相殺する。
「無力な自分に失望した?それとも、圧倒的な力の差に絶望した?」
「…どれも、ちがうよ。」
彼女は膝をついた。魔力切れだ。
「今日はここまでだね。」
私は杖を魔法空間にしまった。
「師匠。」
「何?」
「私は失望なんてしないよ。前向きなのは、取り柄なんだ。」
彼女はキッと私を見つめた。
「そう。」
そして視線を下げ、つぶやいた。
「…悔しいんだ。今の自分には、どうにもできないこと。」
たしかに、数日訓練したところでできるようになることではない。
「…そうだね。」
私は彼女の頭をなでた。
「やめてよ。…もっと、泣いちゃうじゃん。」
「…泣けばいいよ。泣くなとは言ってない。」
彼女は急に頭を上げた。そして、少し笑った。
「そうだね。」
彼女は泣いているのに笑っていた。涙が太陽の光に反射して光って、輝いて見えた。
私は今まで、何人もの弟子をとり、逃げ出した子も見てきた。彼女はきっと大成する。

9/28/2025, 9:21:02 AM