絢辻 夕陽

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7/2/2024, 12:11:20 PM

今日の日差しはとてつもなく暑い。
なんと例えればいいか分からないくらいただひたすら暑い。
私は外出先から戻り机の上でへたばっていた。
「あのー、すみません。」
なんだ、なんだよ。こんな時に。
こんな蒸し暑い中で何の用事だ。
「これ、よかったら。」
おお、これは小型扇風機。
又の名をハンディーファン。
例え部屋にクーラーがかかっていたとしていてもありがたい。
ありがたやーありがたやーと思い、くれた人の方を向いたらまさかの同僚だった。
どう言う風の吹き回しだこれは。
「外、暑かったでしょう。」
「そりゃあもう、とてつもなく暑かったよ。戻ったら即アイスコーヒー飲もうと思ってたところだよ。」
「流石にこの時期で三十度越えは暑いよね。」
そりゃそうだ。何だってこんな暑い中取引先に行かなきゃならんのだ。
仕方ないと言えば仕方ない。
この暑さで取引先のサーバーがえらい事になっては堪らんからな。
そう心の中でぼやきつつ
「まぁしょうがないですよね、取引先の万が一の事考えたら。」
「そうよね。」
このとてつもない日差しの中どれ程のサラリーマン戦士達はあちこちに出向いているやら。
「ところでさっき上司が呼んでましたよ。」
「えっ。」
嫌な予感しかしない。
更なる仕事がどん!か、どん!と来るのか。
そう思うと頭がくらくらしそうになった。
サラリーマン達の暑い夏は始まったばかり。
まだまだこれからだ。

「サラリーマン達の暑い夏」

7/1/2024, 12:08:05 PM

窓の傍から見えるのはいつも山岳の風景。
最早、見慣れた風景だ。
季節の移ろいと共に山々の色めきは変わる。
春は山桜、夏は青々とした新緑。
秋には紅葉で赤に染まりゆき枯れ葉としてやがて
散っていく。
冬には雪が積もり白く染まる木々達。

年齢を重ねれば重ねる程その季節の移ろいによる自然の恵みや有り難み、そして自然の畏怖を知る。
自然は常に人間や動物達、そして植物達と共にある。

人は自然の事をどう思っているのだろうか。
傍にあるから当たり前としか思っていないのだろうか。
自然があるからこそ私達は生きていけるのだ。
自然の恵みや自然に対する畏怖の念があるからこそ生きていけるのだ。

人はそれらが当たり前にある事に対する有り難みに気づいているだろうか。

山に至っては山岳信仰と言うものがある程だ。
自然とは厳しくも常に傍に存在し、我々を見守ってくれている存在なのかもしれない。

「自然と共にあり」

6/30/2024, 12:09:49 PM

運命の赤い糸とは案外簡単にぷつんと切れてしまうのかもしれない。

それも心の中で一方的に思い込むとなると尚更だ。

それが厄介な事になれば尚更たちの悪い事が起きる。

赤い糸とは鋼の糸のように見えて脆いものだ。

だが、赤い糸は一本だけとは限らない。

一本がぷつんと切れてしまってもいつかは必ずまた何処かでまた結ばれる。

そしてまたぷつんと切れる。

出会いと別れのようなものかもしれない。

赤い糸とは出会いと別れの印でもあり、憧れや尊敬の象徴かもしれない。

厄介な事にさえならなければ自然と元の鞘に収まるかもしれないし、そうはならないかもしれない。

人生は一期一会。

赤い糸も一本とは限らないから人生という一本の長い長い赤い糸の上で幾つもの他の赤い糸が絡みつき、そして解けてぷつんと切れる。

その繰り返しで人生は成り立っているのかもしれない。

「赤い糸という人生」

6/29/2024, 12:28:59 PM

みーん、みんみんみんみん。
じじじじじ。

暑い。暑すぎる。なんなんだこの暑さは。
ここには扇風機すら無いのか。

団扇で仰ぎながら家で仕事をしていると
外では複数人のやんちゃ坊主共が騒いでいた。

「今日は森に虫取りに行こうぜ。」
「いいよー。あ、でも入道雲だし、早めに帰らないと雨が降っちゃうよ。」
「大丈夫、大丈夫。それまでに帰ればいいんだから。」

そんなぎゃーぎゃー騒いでいる声を聞きながら仕事を続けていた。

数時間後

おや?例の入道雲が来たか?
だいぶ外が暗がってきた。
そろそろ土砂降り始める頃だろう。

そういえばあのやんちゃ坊主共はちゃんと帰ったんだろうか。

気になり丁度近隣にやんちゃ坊主の一人の家があったので親御さんのところへ行った。

聞いてみたところまだ帰宅してないという。

なんか悪い予感がする。胸騒ぎがして今朝森に向かうと言ってたのでその森に向かった。

何もなければいいが。

森の外れに数人の子どもがいた。
だがやはり様子がおかしい。

「おい、やんちゃ坊主共。もうすぐ土砂降るぞ。
一体どうしたんだ。」
「あっ、おっちゃんあのね。」
「いや、言わないで俺たちだけで探し出そう。」
「無理だよ。こんな広い森の中で探すなんて。」
「で、どうしたんだ。はっきり言え、はっきりと。」
「ちっ、しょうがねぇな。おっちゃんあのな、仲間の一人が行方不明なんだ。森を出るまで一緒にいたはずだったんだけどな。急に消えちまったんだよ。」
「消えた?」

嫌な予感が当たったかもしれない。
この森の奥には社がありそこは昔から「何か」を祀っていた。いや、正確には治めていたと言ってもいいかもしれない。

「お前らは急いで家に帰っとけ。親が心配する。
もう一人の子はなんとか見つけ出すから心配するな。」
「えっ、俺たちも探すよ。」
「いいから帰れ、じゃ無いと土砂降るぞ。」
「はーい」
素直に帰ってよろしい。
さて自分がやるべき事は社に向かう事だ。
恐らくそこにその子どもと元凶がいるはずだ。

社に着くとそこは草が生え荒れ放題になっていてとても普段から管理されているとは思われない様な容態だった。

いる。
奴は絶対いる。

「おい、ここに子どもが来ただろう。お前には勿体ないものだ。返してもらう。」

社の中から微かな声が聞こえた。

それと同時にばんっと社の扉が勢いよく開いた。

奴、マガツカミだ。
こいつはいわゆる祟り神で、この付近の土地にかつて災いをもたらしここの社で治められていた。
だが最近ここは見た通り手入れがされてない。結界が弱まっていた結果出てきたのだろう。

「もう一度言う。その子どもを離せ。でなければ、消す。」

マガツカミと呼ばれたその存在は何も言わなかった。いや、直接頭に語りかけてきた。

「ほう、貴様の様な小僧如きに我に指図するとは良い度胸よのう」
「うるさい。とにかく子どもを返しやがれ。」
「ふむ、戯れのつもりで連れてきたのだがその様子だと返さねばなるまいな。」

こいつは俺の力量を理解しているようだ。
穏便に済ますつもりだろう。

「まぁよい、この小坊主には灸を据えておけ。我が領域に入ってくるなり、我の持ち物を奪い始めたからな。」
「わかった。後でちゃんと言っておく。」

俺はそう言って森からその子どもを連れ出した。

奴は、追いかけてこなかった。

「うーん。」
気がついた様だ。
「あれ?確か社に行ってそこで大量の甲虫と鍬形を見つけて取ってたはずなんだけど。」
「あのなぁ、人のとこで勝手に虫取りとかするなよ。神様にでも怒られたんだろ?どうせ。」

そう言って家に送り自宅に戻った。
途端に土砂降り出した。

また今後も同じような厄介事が起きなければいいけどな。

「とある森の社の話」

6/28/2024, 12:13:22 PM

梅雨の季節が過ぎ七夕様の時期に入った。
私はこの季節になると思い出す事がある。

その年の七夕の朝は曇っていた。
天気予報によると夜には天の川が見える天気になる様だった。
それだけでもなんか嬉しかった。
毎年この日になるとよく土砂降りや曇天で見えない事が多いからだ。

「今日はちゃんと見えるといいね。」

彼にそっと言った。

「そうだね。毎年こうなればいいんだけどなぁ。」



急に土砂降りが降り出した。

「天気予報じゃ曇りのままのはずなのに」
「まぁ、夜にはちゃんと晴れて天の川が多分見れるよ」
「多分て何よ。多分て。」
「いや、天気予報もたまには外れるじゃないか。
今はたまたま外れているだけなんじゃないかな。
雨雲レーザー見る限りこの後ちゃんと晴れるみたいだし。」
「もう。」

彼はいつもこんな調子だ。
言い方はある悪いが行き当たりばったりと言うか、何というか。かなり大雑把な性格だ。

対する私はというと

「ま、晴れる事を願うか。」

もはや半分諦めている。
いや、今土砂降るという事は夕方から晴れるという事かもしれない。

という様に合理的かつ、さっぱりとした考え方をする人間だ。

今年こそは、今年こそはなんとしてでも。

いや、天の川がちゃんと見られたら。

と、何かに対して心の中で意気込んでいた。


「今年こそ、最後なんだから告白してみせる。」

私は思わず小さな声で出てしまった。

「えっ?今なんか言った?」
「あっ、いや、何でもない何でもない。何も言ってないから。」
「そっか。」

危ない危ない。ばれるところだった。

夕方

あの土砂降りは何処へやら、晴天になり夕日もキラキラ輝いて落ちていく。

「もう夕方か。早いなぁ。」
「でも無事晴れてきたし虹も見れたし。今日は満天の星空で天の川が見れるかもね。」

夕陽はキラキラと輝きながら地平線の下へ潜り込もうとしていた。



想像を絶する満天の星空だった。
天の川もしっかりと見えるし、織姫星と彦星もきらきらと輝いている。
これほど綺麗な星空を公園で見上げたのは久々の事だろう。

「綺麗。」
「なんか、思ってた以上に凄いな、天の川って。」

私は今の発言で言おうとしていた事を思い出した。

「ねぇ、私達友達になってどれくらいだっけ。」
「んー。多分三年くらいかな?」
「そろそろさ、いい加減付き合わない?」
「えっ?それ今言う事?」
「いいじゃない、こうして一緒に天の川見てるんだし。」
「うーん。まぁ、いいよ。かれこれ数年は付き合っているわけだし。腐れ縁かもしれないけどさ。」

一言多いぞ。

「そっか、ありがとう。」

私はそれから彼と付き合って数年後別れた。
彼は仕事の都合上遠い街に転勤になったからだ。
別れてしまったけれど今でも友達として付き合っている。
遠い街の綺麗な星空を写真に収めて時々送ってくれる。

私はそんな彼の事が本当は今でも大好きだ。

「七夕の恋」

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