絢辻 夕陽

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みーん、みんみんみんみん。
じじじじじ。

暑い。暑すぎる。なんなんだこの暑さは。
ここには扇風機すら無いのか。

団扇で仰ぎながら家で仕事をしていると
外では複数人のやんちゃ坊主共が騒いでいた。

「今日は森に虫取りに行こうぜ。」
「いいよー。あ、でも入道雲だし、早めに帰らないと雨が降っちゃうよ。」
「大丈夫、大丈夫。それまでに帰ればいいんだから。」

そんなぎゃーぎゃー騒いでいる声を聞きながら仕事を続けていた。

数時間後

おや?例の入道雲が来たか?
だいぶ外が暗がってきた。
そろそろ土砂降り始める頃だろう。

そういえばあのやんちゃ坊主共はちゃんと帰ったんだろうか。

気になり丁度近隣にやんちゃ坊主の一人の家があったので親御さんのところへ行った。

聞いてみたところまだ帰宅してないという。

なんか悪い予感がする。胸騒ぎがして今朝森に向かうと言ってたのでその森に向かった。

何もなければいいが。

森の外れに数人の子どもがいた。
だがやはり様子がおかしい。

「おい、やんちゃ坊主共。もうすぐ土砂降るぞ。
一体どうしたんだ。」
「あっ、おっちゃんあのね。」
「いや、言わないで俺たちだけで探し出そう。」
「無理だよ。こんな広い森の中で探すなんて。」
「で、どうしたんだ。はっきり言え、はっきりと。」
「ちっ、しょうがねぇな。おっちゃんあのな、仲間の一人が行方不明なんだ。森を出るまで一緒にいたはずだったんだけどな。急に消えちまったんだよ。」
「消えた?」

嫌な予感が当たったかもしれない。
この森の奥には社がありそこは昔から「何か」を祀っていた。いや、正確には治めていたと言ってもいいかもしれない。

「お前らは急いで家に帰っとけ。親が心配する。
もう一人の子はなんとか見つけ出すから心配するな。」
「えっ、俺たちも探すよ。」
「いいから帰れ、じゃ無いと土砂降るぞ。」
「はーい」
素直に帰ってよろしい。
さて自分がやるべき事は社に向かう事だ。
恐らくそこにその子どもと元凶がいるはずだ。

社に着くとそこは草が生え荒れ放題になっていてとても普段から管理されているとは思われない様な容態だった。

いる。
奴は絶対いる。

「おい、ここに子どもが来ただろう。お前には勿体ないものだ。返してもらう。」

社の中から微かな声が聞こえた。

それと同時にばんっと社の扉が勢いよく開いた。

奴、マガツカミだ。
こいつはいわゆる祟り神で、この付近の土地にかつて災いをもたらしここの社で治められていた。
だが最近ここは見た通り手入れがされてない。結界が弱まっていた結果出てきたのだろう。

「もう一度言う。その子どもを離せ。でなければ、消す。」

マガツカミと呼ばれたその存在は何も言わなかった。いや、直接頭に語りかけてきた。

「ほう、貴様の様な小僧如きに我に指図するとは良い度胸よのう」
「うるさい。とにかく子どもを返しやがれ。」
「ふむ、戯れのつもりで連れてきたのだがその様子だと返さねばなるまいな。」

こいつは俺の力量を理解しているようだ。
穏便に済ますつもりだろう。

「まぁよい、この小坊主には灸を据えておけ。我が領域に入ってくるなり、我の持ち物を奪い始めたからな。」
「わかった。後でちゃんと言っておく。」

俺はそう言って森からその子どもを連れ出した。

奴は、追いかけてこなかった。

「うーん。」
気がついた様だ。
「あれ?確か社に行ってそこで大量の甲虫と鍬形を見つけて取ってたはずなんだけど。」
「あのなぁ、人のとこで勝手に虫取りとかするなよ。神様にでも怒られたんだろ?どうせ。」

そう言って家に送り自宅に戻った。
途端に土砂降り出した。

また今後も同じような厄介事が起きなければいいけどな。

「とある森の社の話」

6/29/2024, 12:28:59 PM