トポトポと液体が注がれる。
紅い蜜色をした少し濃いめの紅茶。
アールグレイの香りが部屋を満たす。
ソーサーの近くにはクッキーの入った小皿が並べられていた。
「お嬢様、お茶の準備が出来ましたよ」
「まあ、セバスチャン。ありがとう」
同じ声が会話をしている。
「今日のお菓子は特別にデパートから取り寄せたものです」
「あの美味しいクッキーね。楽しみだわ」
「ティーカップも合わせてお気に入りのものを揃えました」
「あの小花柄ね。セバスチャンは私のことを何でもお見通しね」
午後3時。
1人で会話をしながらティータイムの準備をする。
先日購入した美味しそうなクッキーを食べるために、お気に入りのティーカップを添えて。
今日はスカートを履いていないから、付けっぱなしのエプロンをスカートに見立てて裾をつまみ、恭しく椅子に座った。
「さぁ、冷めないうちにお茶をどうぞ。ありがとう、セバスチャン」
席についた私は、また1人でやりとりをして、ティーカップに口をつけた。
/11/12『ティーカップ』
『ねぇ、今日もそっち行っていい?』
寂しがりの女の子から来たメール。
俺は一も二もなく『いいよ』と返信した。
寂しがりの女の子は、俺の家に泊まる代わりに自分を提供する。
俺はしょうがないなといった風に彼女を抱き、その寂しさを埋めてあげていた。
金も友情もない、ただの寂しさを埋めてあげるだけの行為。
そんな関係が続いて一年が経った頃。
いつからか、寂しがりの女の子から連絡が来なくなっていた。
それに気づいたのは、クリスマスの曲が街に流れ始める12月のある日だった。
最近連絡が来ないなと思っていたが、そのことに気付き苛つきにも似た感情を覚えた時に自覚した。
寂しがりだったのは、俺のほうだったのか。
/11/10『寂しくて』
「これ以上はこちらに入ってこないで」
少し深い会話をすると出てくる、私の心の境界線ちゃん。
深堀りしようと話される会話はちくちくと心の扉をノックする。
私はそれ以上聞かれたくなくて曖昧な返事をするが、相手が納得して引いてくれることは半々。
今日も曖昧に濁して顔だけ笑いながらなんとか逃げ道を探す。
境界線ちゃんは懸命に両手を広げて立っている。
/11/9『心の境界線』
僕には透明な羽根が見える。
君の背中に生えている透明な羽根。
僕だけにしか見えない羽根。
いやもしかしたら、他にも見えてる人がいるかもしれない。
そう思ってもらえるのはやぶさかではないけれど、出来れば他の人には見えてほしくないな。
天使のような彼女に映える透明な羽根。
/11/8『透明な羽根』
ふー、と静かに誰かが息をついた。
ゆらゆらと息に合わせて揺れる灯火。
「ちょっと、消さないでよ!?」
誰かの語気を強めた言葉が飛ぶ。
その言葉に合わせるように、火はまたゆらりと揺れた。
「あんただって!」
別の女が言う。
「まあまあ、言い合いしてても始まらないでしょ。ほら、するなら早くしましょう」
また別の女が言う。
彼女たちは、教室の机の上で一枚の紙を囲んでいた。中心に灯火の点いたロウソクを立てて。
おまじないをするために囲んだ用紙。
誰かが誰かから聞いたという、質問に答えてくれる、はたまた願いを叶えてくれるというおまじない。
大人に言わせれば、それは降霊術だとかオカルトの一部だとかくだらないと一蹴するするものだったが、彼女たちはいたって真剣だった。
「じゃあ、いくよ」
そんな方法は聞いていなかったのに、みな自然と手を繋いだ。
「ハンモクさま、ハンモクさま、お越しください。お越しくださったら、ロウソクの火を一度揺らしてください」
/12/7『灯火を囲んで』
そろそろマフラーが必要かなと思った時
温かい肌着を出した時
もこもこの衣服を出した時
私の冬支度はそんな温度を感じた時
それから、朝晩の息が白くなった時
/11/6『冬支度』
ふっ、と息を吐いて止める。
この幸せな時間が止まりますようにと祈りを込めて。
そんなことをしても止まらないとは知っているけれど。
君の髪がさらりと耳の後ろに流れて、涙がそれを追い伝った。
どうして繋がることしか出来ないのだろう。
ひとつに溶け合ってしまえればいいのに。
/11/5『時を止めて』
『あの花の下で待ってるね』
彼女はそう言い残して僕の前から姿を消した。
約束の木、キンモクセイ。
待ち合わせの場所に来た僕は、甘く強い香りの下でずっと君を待っている。
今年も、甘やかな香りが鼻をくすぐる。
待ち合わせの場所に近づく度に、君の残した香りが寂しさを増させる。
/10/4『キンモクセイ』