目が覚めると、世界がほんのり明るく見えた。
カーテンの色合いがいつもと違う。
そして、
「んー」
体を起こした隙間から入った風に体を震わせる恋人に、いつもより空気が冷たいことを感じた。
恋人に布団をかけてやり、カーテンの隙間からそっと外を覗いてみる。
(やっぱり)
昨夜までなかった白い世界が窓の外に広がっていた。
窓も少し結露している。
(これは今日の散歩はお休みかな?)
誰にも汚されていない白銀の地面を見て、日課の散歩を嫌がる恋人の姿がありありと想像できた。もしくは、嬉々として外に出るかもしれないが。
(まずは、布団から起こすところからかな)
しかし散歩に行く行かない、どちらにしろ、布団から出ないことには話にならない。
一時間後、素直に起きてくれるかは、僕の起こし方にかかってくるだろう。
12/26『雪明かりの夜』
今日は世界中のこどもが幸せになる日らしい。
昔誰かがクリスマスのことをそう言っていた。
幸せになれなかった自分は、そういうのを信じはしない。
もう幸せになれる年でも環境でもないけれど、今年も一人でも私みたいなこどもがいなければいいと願う。
12/25『祈りを捧げて』
あの人は、厳しい人だった。
手はあげないけれど、しつけというしつけはされたと思う。
そんな中でひとつだけ。忘れられない優しい思い出がある。
城の廊下を通っている時だった。
桜の花びらがひらひら舞っているのを「雪みたい」「きれいだ」と僕が言うと、「そうですね」って珍しくあなたが笑ってくれたんだ。
風が吹いて花びらがさらに散った中で微笑むあなたの姿がとても綺麗だったのを覚えている。
それ以降、優しい記憶なんてないけれど、あれが暖かい記憶だということは本当だ。
「あなたのやるべきこと、わかっていますね」
僕はどうしたいんだろう。
役目を遂げて褒められたいのか、役目を放棄したいのか。まだ迷っている。
(もしかしたら、あの笑顔がまた見られるのだろうか――?)
あなたの命令に頷きながら、僕は今日も役目を果たそうと城を出る。
12/24『遠い日のぬくもり』
冬なのでやりたくなるゲーム。
春の光がさす回廊で、僕はあなたとすれちがった。
あなたは何も言わず、いつものようにベールをまとわせた手を口元にやり伏し目がちに歩いていた。
保護者代わりというのに、3ヶ月ぶりに会ったというのに、あなたは僕に何も言わない。
まるで言うことがわかっているから伝えなくてもいいと言わんばかりだ。
(あぁ、そうさ。言われなくたって、あなたの言いたいことはわかっている)
『この終焉を止めること。それがあなたの役割です。わかっていますね?』
それがあなたの口癖だった。
何度も言われすぎて、僕はあなたが口を開くと同時にそれを言えるようになってしまった。
だから僕らはもう、何も言わない。
お互いに役目を果たし終えるまで。何か言葉を交わすとすれば、それは何かあった時だろう。
僕はあなたに、いつかしていた親にするような希望は持たず、今日もあなたの駒として戦場に向かう。
12/22『光の回廊』
ひらひらと雪が積もっていくように、ひとひらひとひら思い出が積もっていく。
君と言葉を交わす度に。
君がまばたきをする度に。
君が僕を呼ぶ度に。
ひとつひとつが重なって、好きのミルクレープが出来そうだ。
そんな事言うと君は、
「詩人気取り?気持ち悪い」
なんて言うんだろうな。
12/21『降り積もる思い』
「はい、これでオーケー」
紙の束を水色のリボンで結んで、ダンボールのなかに入れた。
これは私の思い出の束。
そこにあるのは、手紙や写真など手に収まるくらいの紙の束。
こうしてリボンをかけて思い出をお菓子の缶に閉じ込めておくのだ。
そうして次に開いた時には、タイムカプセルのようにこのリボンをほどくとその時の記憶が蘇るという寸法だ。
(寸法だって偉そうに言うけど、ただ可愛く残したいだけなのよね)
12/20『時を結ぶリボン』
ひらひらと落ちてくる花が手のひらに着地した。
白い花。
花のように見える、雪。
着地した雪は数秒後には溶けて消えてしまう。
「何してるの?」
聞こえてきた声に振り向けば、雪が連れてきてくれた彼。
あなたを待っていたのと答えると、彼は「だと思った」と笑って私の手の上に雪うさぎを乗せた。
「待たせたお詫び」
にっこりと微笑む彼に心を撃ち抜かれた私は、手の中の雪うさぎが溶けてしまわないか心配になった。
冬の間しか会えない彼に、私は飽きもせず今年も会いに来た。
12/19『手のひらの贈り物』
いつまでも苦々しい思いが消えない
もう思い出したくもないのに
その温もりや優しかった声が消えない
あなたが消えてくれない
12/18『心の片隅で』
白銀に音を吸い込まれてしまったような静寂。
シーンという音すらない、真っ白な世界。
「はぁ……」
吐く息が白く溶けて消えていく。
白の中に見える青い影が、唯一僕の存在を示していた。
(これから、君を殺しにいく。出来るのかな?僕に)
腰に携えた剣は、ずっしりと今から捕らえに行く命の重みを表しているように重かった。
(でも、僕がやらなきゃ。……僕にしか出来ないことだから)
柄を握り直して、雪の中を進んでいった。
僕の親に似た存在の人に言われた使命。
この国を、世界を救うため、誰かが犠牲にならなくてはいけない。
(それが彼なのが納得いかないけれど)
雪に取られた足が、この先を進むのを引き止めるかのように重かった。
(でも、誰かに使命を譲るくらいなら、僕がこの手で彼を終わらせる。)
僕はその重みを振り払うように足を上げて、一歩また一歩と歩んだ。
(待っててね。必ず僕がこの手で君を終わらせるから)
声にならない願いは、雪原に飲み込まれる。
12/17『雪の静寂』
外に出たかった。
思う存分走ってみたかった。
大空の下で歌ってみたかった。
すべては君が見た夢。
病床で思い描いていた夢。
寝たきりで叶わなかった夢。
代わりに僕が叶えてあげる、なんてことは言わない。言えない。
だけど、もし来世というものがあるのなら、僕は来世でも君の隣にいると誓うよ。
そして君の夢が叶うところをそばで見ていたい。
12/16『君が見た夢』
まずは寝ること。
ゆっくり眠れれば、明日は過ごせる。
眠れないなら、こちらへおいで。
いっしょにホットミルクでも飲もう。
12/15『明日への光』