君の大好きな歌を歌って、階段を上る。
ゆっくり、ゆっくり。一段ずつ踏みしめるように。
もうすぐ君に会いに行くからね。
/10/13『LaLaLa Goodbye』
どこまでも吹きすさぶ風。
かろうじて目は開けられるが、視界は不良だ。
この風は、いつになったら止むのだろう?
枯れ葉や砂が舞い踊る最中、どこに進んだらいいのかも、もはやわからない。
私の心の中はいつだって砂嵐。
風が止む時は、私の心が止まった時だろうか。
それとも、もしかしてもう――。
/10/12『どこまでも』
「んんっ!? ここは!?」
気がつくと、僕は見知らぬ交差点に立っていた。
住宅街の十字路。周りはアパートやマンションに囲まれている。
気がつくまで気がついていなかったのだから、僕は眠ってでもいたのだろうか?
「ここ、どこだ……?」
周りを見回しても情報は家々と囲いの壁だけで、得るものは何もない。
縁もゆかりも無い場所にぽつんと立たされて、どうしようかと迷っていると、ふと自分が明かりに照らされていることに気づいた。
(ん?)
まるでスポットライトを浴びるかのようにくっきりとした明かりが自分の周りを照らしている。
「んん?」
まさかと思い頭上を見上げると、本当に照らされていた。
眩しいとは思っていたが、よもや本当に照らされていたとは思わない。
眩しさに目をすがめながらよくよくライトを見てみると、見たことはないが見覚えのある形をしていた。
「UFO……?」
呟いた途端、明かりの真ん中に丸い影ができ、筒のような何かが僕目掛けて降りてきた。
僕は蛇に睨まれたカエルのように体が動かず、なすがままに筒に捕らわれ、光と共にさらわれていった。
/10/11『未知の交差点』
「はい、おかあさん」
買い物から帰ってくると、息子が花を持ってきた。
幼稚園で摘んできたのだろうか?
「なあに?」
これはどうしたのかという意味で尋ねたが、通じなかったのか息子は、
「こすもす」
一言答えた。
「コスモスだね。かわいいね。これどうしたの?」
「おかあさんにあげる」
プロポーズよろしく私に花を差し出すと、息子は子ども部屋に駆けていってしまった。
(なんなのかしら?)
花の意図は分からぬまま、道端でよく見る一輪のピンクのコスモスを差すための容れ物を探した。
/10/10『一輪のコスモス』
秋にする恋は、心に残りやすいという。
それは秋の空気がそうさせるのか。
秋の風が寂しさを心にとどまらせるためか。
微かな寒さが人肌の温かさを思い出させるためか。
赤く染まった葉が枯れてゆく様は、二人の行く先を表しているよう。
それが意味するのは二人が共に枯れてゆくのか、恋が枯れてしまうのか、神のみぞ知る。
/10/9『秋恋』
しん、と静まった部屋。
静けさが部屋を支配して、もう15分になる。
先程言い合っていた声が耳の奥に木霊してしまうほど、部屋は静寂に包まれていた。
(困ったなぁ……。このままだと晩ご飯食べ損ねちゃうよ)
ここは私の部屋。
部屋には私の他に男の子が2人。
一人は彼氏のユウくん。
一人はセフレのマサくん。
今回ここに集まることになったのは、デートがブッキングしてしまったからだった。
男の子2人は「お前は誰だ」と言い合いをし、あわや殴り合いになりそうなところを私が懸命に止めたのだった。
その後に訪れた無音の時間。
静寂と空腹に耐えきれなくなった私は、2人の間に入ってこう言った。
「私のために争わないで!」
「君のせいで争ってるんだよ!」
仲良く声を揃えた2人が私を責めた。
/10/8『静寂の中心で』
目が覚めると、見慣れぬ天井だった。
少しして、自分が今旅行に来ていることを思い出した。
窓の外を見ると、眼下には燃えるような景色が広がっていた。
燃えるような、紅い葉。
(来てよかった……)
ちょっと奮発していい旅館に泊まったおかげで、窓からの景色も最高だ。
これから食べる朝食もきっととても美味しいのだろう。
(今日は紅葉を見ながら散策かな)
浴衣を着替えながら今日の予定を立てる。
見下ろしている景色を今度は下から見上げよう。
/10/7『燃える葉』