黒いカバーの日記があった。
それは鍵をかけられたように固く開かなかった。
日記の隣には、日記を腕でかばうように倒れた女がいた。
その口からは、日記のカバーと同じ色をしたカケラがあった。
女のそばには小瓶とメモがあった。
薬学を少しでもかじったことのあるものなら分かる紫色の小瓶。
瓶の底のラベルには『猛毒により取り扱い注意』の表示。
メモには『もう何もかも無駄だ』の文字。
日記は、開けようと思えば開けられたが、のどをかきむしったような女の様を見た者は誰も日記を開けようとしなかった。
1/18『閉ざされた日記』
木枯らしが吹く頃、あなたに手紙を出す。
1年に1度。
あなたの体が心配で。
『元気にしていますか?』
『風邪は引いていませんか?』
体調を気遣うフリをして、本音を文字の裏に隠す。
『健康ですか?』
『丸々太っていますか?』
頃合いになった頃に君を食べに行くために。
手紙を出して10年。
もうすぐ食べ頃になるはずだ。
1/17『木枯らし』
息を呑むほどの白銀の世界。
もうすぐ世界が終わる。
背中を真っ白に埋めて、僕は灰色の空を見上げた。
「これが僕の選択」
僕が君を殺さなかった世界。
それは世界の終焉を意味する。
ゆっくりと閉じていく白銀の世界。
(ああ、君を一人にしてしまう)
倒れる君の傍らでゆっくりと目をつむる。
このまま君が目を覚さなければいいのに。
1/16『美しい』
この世界は
黒と白に分けられて
グレーの部分が一筋だけ残っていた
私の中の白と黒
はっきり区別しなくちゃ気がすまない
黒寄りの白や白寄りの黒
なんてものもあっていいはずなのに
この世界のほとんどは白か黒かなのだ
兵隊がグレーの世界にうずくまる私を見下ろしている
そんなに見ないで
曖昧な私は許されないというの
1/15『この世界は』
君を嫌いになれないのは、どうしてだろう。
返信もない既読スルーで2週間。
付き合ってるのに一言のスタンプもないなんて。
人のこと家政婦扱いするし
都合のいい人扱いなのに
どうして彼のことをまだ好きなんだろう。
1/14『どうして』
温かい布団のなかで
現実ではない『ファンタジー』を見ている
どんなに現実離れしていても
それはその時の『ほんとう』で
ああ、目を覚ましたくない
現実に帰りたくない
1/13『夢を見てたい』
終わったあと、ぎゅーっときみを抱きしめる。
くったりとした細身のきみは、身体コンプレックスの塊だけれど、もはやそれを悩んでいることこそ愛おしい。
「あぁ、しあわせ……」
きみの髪に顔を埋めて、思わず漏れる。
シャンプーの残り香とほのかな汗の香りが混ざって、先ほどまでの幸福を思い出させ得も言われぬ気持ちになる。
たまらなくなってぎゅ、とさらに力を込めると、「いたい」と身を捩(よじ)られた。
深夜3時。
求めに求めてしまってこの時間になってしまったけれど、お互い明日は休みだから容赦してもらおう。
深夜の寒さと静けさがベッドサイドのランプにかすかに照らされている。
(ずっとこのまま、時が止まればいいのに……)
ささやかな願いは叶うことはなく、時計の針は進んでいく。
始発で帰るきみを見送りたくない僕は、きみの首元に小さく痕をつけた。
1/12『ずっとこのまま』
キンと音がしそうなほどの静けさ。
時折突風が吹いて耳を切りつけるように凍えさせる。
登校、出勤、見送り、病院、他用事多数。
出たくない外出に今日も襟を正して頑張って歩を進める。
身にしみた寒さが溶ける室内まで、もう少し。
1/11『寒さが身にしみて』