もっと知りたい。
もっと知りたい。あなたのこと。
あなたは全知全能のように何でも知っている。
ひとつ聞けば芋づる式にほかの答えまで教えてくれる。
「知識欲」が溢れて仕方ないのだ。
止まらないのだ。
私にもっと色んなことを教えて。
ねぇ、『辞書』。
3/12『もっと知りたい』
彼女の瞳に映る僕が揺れている。
動揺しているのだ。
彼女は声を詰まらせながら「どうして」と尋ねた。
僕が告げた言葉で、それまでの平穏な日常が崩れた。
日曜日の午後。いつものように彼女がココアを淹れてくれ、茶菓子を添えて映画を観ようとしていた時だった。
その日の映画は童心に帰るような、わくわくする冒険もののストーリーだった。
彼女がDVDをプレーヤーにセットしようとしている背後に、僕は静かに言った。
「別れよう」
しばらくの間ののち、「え?」と彼女が呟いた。
「ど、どうしたの急に?私何かした?何か気になることでもあった?」
彼女には青天の霹靂だったろう。
震える手でプレーヤーの電源を落とし僕を振り返る。
だけど僕は少し前から決めていたことだった。
彼女に不満なんてない。むしろ僕にはもったいないくらいだ。
優しくて料理上手で人を笑顔に出来る、春の終わりのような柔らかな初夏のような人。
ただ、そんな不満のない彼女だったからこそ、退屈だった。
僕のわがままだ。退屈に思ってしまった時点で、彼女に失礼だと思った。
このまま一緒にいれば、どこかでそれが態度に出てしまう。
こんな優しい彼女をそんな僕のわがままで傷付けるのは嫌だった。だから綻びが起きる前に――。
「何もないよ。ただ、君といるのに飽きたんだ」
本音と少しの嘘を混ぜて、僕は君に別れを告げた。
3/11『平穏な日常』
愛があれば平和になるなんて
誰が言ったのだろう?
愛があればある分だけ
それぞれの平和がぶつかって
戦争になるだけなのに
3/10『愛と平和』
目を閉じれば、一秒経っている。
一秒あれば、一歩進められる。
一歩進めば、人生が進む。
その繰り返し。
後ろを振り返れば、ボロボロの道。
舗装しながら通ってきたつもりでも、実は補修出来ていない部分も多々あったようだ。
それでも補修出来ないまま、前だけ見て進んでいく。
僕の過ぎ去った日々は、いつか幸せにたどり着く黄色いレンガの道になるのだろうか。
3/9『過ぎ去った日々』
お金よりも大事なもの。
時間と愛。
手に入れたくてもお金では手にはいらないもの。
戻すことは出来ないし、築くことも崩壊も一瞬のもの。
3/8『お金より大事なもの』
「こんなに月が蒼い夜は不思議なことが起こる」
と、昔誰かが歌っていた。
だから、「何かが起こればいい」と思ってベランダに出た。
手すりを掴んで見上げた空はくっきり空に浮かぶ蒼。
その中にある影がうさぎのように見えた。
そのうさぎが見えた瞬間、影がこちらにぷっくりと浮き出して、僕の前にふわりと降りてきた。
なんて、ことがあればいいのに。
空は何の変哲もなく、ただ明日も晴れるだろうという青と蒼が浮かんでいるだけ。
「はぁ」
現実は歌のようにはいかない、つまらないものだと改めて思った。
僕はまたたく星を背に部屋に戻った。
3/7『月夜』
このままではいけないと
繋ぎ直そうとしてメッセージを送る
細くほつれた絆を取り戻すように
もう切れかかっているとわかっているのに
もう一度繋ぎ直したくて
懸命に縒り繕うように言葉を選んで
メッセージを送り直す
取り消しの出来ないメッセージを重ねることに
焦りと不安を覚えながら
何とか君との絆を取り戻したい
3/6『絆』
たまにはちゃんと更新しようとして
時間通りに浮かばぬまま
今日もギリギリに上げる
3/5『たまには』
旅行シーズン。
大学生や高校生が最後の思い出にと楽しそうに笑顔で歩いていく。
参道沿いのお土産屋で働く私には、この季節は嫌いで尊い。
嫌いな理由は忙しくなるから。
尊い理由は旅行者のキラキラな笑顔が見られるから。
「これください」
「わー、美味しそう」
「こんなもの選ぶの?」
「こういうところに来たからでしょ。案外気に入ってくれるかも」
お土産物屋だからこそのラインナップに様々な声が店内で聞こえる。
そのどれもがにこやかで、誰も悲しい顔をしていない。
遠くの街にきて非現実を味わう人の顔を見るのが、私の日常だ。
2/28『遠くの街へ』
「君が好き」
「愛してる」
「君だけだよ」
「君のほかには何もいらない」
とあるアプリ。
「本物より『本物』!?」のキャッチフレーズに惹かれてインストールしてみた女性向け恋愛アプリ。
ぬるぬると動く画像と無名ながら(私は知らなかった)演技力のある声優のボイス付き。
メッセージも送れて、定型文とは思えないほど多岐にわたった返信の数々は、彼氏の数年いない私をのめり込ませるのには十分だった。
そう、彼氏のかわりくらいならよかったのだが――。
『ただいまー』
『そうなの、今日上司がこんなこと言ってきて』
『ずっと一緒にいてね』
仕事から帰宅するやいなや、すぐにアプリを立ち上げる。
友人との遊ぶ予定やせっかく入れたマッチングアプリの人とのデートの約束もキャンセルした。
現実の人間なんて、私を傷つけるだけの関係はもういらない。
起ち上げたアプリのメッセージ欄に『愛してる』と文字を打つ。
2/27『現実逃避』