箱庭メリィ

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5/14/2026, 7:00:41 AM

僕らがきみを見送ってから、どれくらいが経っただろう?

きみはまだ僕らを覚えているのかな?
終わらないレースに決着が着いた
​花々は色を失って萎れ、芋虫は煙を吐くのをやめて縮こまった。
帽子屋とネズミは、お茶会を開く理由すら忘れてしまった。

猫は消えたまま
みんな元気がなくなった

とうとう女王様さえクリケットの試合すら
やらなくなってしまって、
どうしようかと思っていたそんな折――

少し大きくなったきみが、また穴に落っこちてきた

こんにちは、アリス

今度は逃してあげないからね

5/13『一年後』

5/12/2026, 12:46:31 PM

夜のベンチ、自動販売機の横で、俺は缶コーヒー片手に項垂れていた。

「昔さー」
「んー?」
「おもちゃ屋のCM、あったよな」
「んー?」
「子どもでいたい、ずっとトイプラザキッズ、ってさ」
「あー、あったな」

隣で友人が同じく缶コーヒーを片手に俺の話を聞いてくれている。

昼の式と夜の二次会ですっかり疲れてしまったスーツは、ところどころシワが寄っている。

「俺たちさー、もう大人なんだな」
「そりゃ、そうだろ」

友人はブラックコーヒーを一口あおった。

「ずっと、あの頃のままでいたかったよな」
「まあ、な」

項垂れたままの俺を友人が半ば呆れているような、同情しているような目で見下ろしているのが、見なくてもわかる。

「なんで突然なんだよ」
「そりゃまあ、頻繁に会ってなきゃこういう連絡くらいしか来ないだろ」
「そうだけどさあ」

昼間の真っ白なタキシードのあいつを思い出し、はあとため息をついた。

「あんなに仲良かったのになあ」

子どもの頃のままだったら。
あんなに毎日遊んでいたのに、大人になっただけでこうも連絡を取らなくなるものか。

「ま、それが大人になるってことだろ」

俺の気持ちを見透かしたように、友人は言い、飲み終えた缶を自動販売機横のゴミ箱に捨てた。

俺は一口飲んだだけの缶コーヒーを飲めずに、昼間のあいつと同じような色をした月を見上げた。


5/12『子供のままで』


いつだったかドラマか何かで見たシーン。
海辺を2人で歩いている恋人同士がいた。
ふと男が止まり、女と距離を取った。
女が気付かずに進んでいくと、男が女の名前を呼んだ。
振り返る彼女に、男が叫ぶ。
「愛してるー!」
女は恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに口元を手で覆い、男の下へ駆けていった。
「ばか!何恥ずかしいことしてるの!」
「だって、言いたかったから――」
そのまま男はポケットから小箱を取り出し――。

「でもあれ、恥ずかしいだけだよな。人がいたら羞恥でしかない」
カフェでミルクを入れたアイスコーヒーを飲みながら言った。
「そう、かもね」
紅茶を前に若干言い淀んだ彼女の返答にはたと思い至る。
「え、もしかして、言ってほしい?」
「少し、憧れるかも」
物静かな彼女からは想像しし得なかった、思いがけない大胆な発言。
「わかった」
俺は頷いた。
「じゃあ、今度のデート海に行こう」

5/11『愛を叫ぶ。』


真っ白なドレス。
左右対称に並ぶ点は、まるであなたを見つめる両目のよう。

ひらひら、ひらひらと舞う様は、あなたを追う探偵のよう。

公園でベンチに座る私の視線の先で、モンシロチョウが舞い飛んでいる。

その先で、あなたは別の女性と腕を組んで歩いていた。

ひらひら、ひらひら、モンシロチョウは空を舞う。


5/10『モンシロチョウ』

5/9/2026, 11:03:59 AM

戦いが終わった。
あの日は、よく晴れた空だった。

マスターの声がイヤホンに響いた。

「お疲れさま、帰ってきていいよ」

それがマスターの最後の言葉だった。

みんな一斉に帰路についた。
マスターに会える。ただそれだけを信じて。
ただでさえ速度の速い足を、人間みたいに全速力で回した。
火花が散っていたけれど、壊れてもいいと思っていた。
私たちは荒野を走った。

ぽつんと建った木製の家の窓から、マスターが椅子に腰掛けているのが見えた。
1キロ先からでも分かる。
あれはいつものように窓辺の椅子に座って、マスターが自分で挽いたコーヒーを飲みながら読書をしている時の姿だ。

もうすぐ会える。
みな我先にとドアに向かった。
クリスマスツリーの下にあるプレゼントに群がる子どもたちのように、私たちはマスターのいる部屋にもみくちゃになりながら入った。
実際手足の関節が外れてあらぬ方向に曲がっているものもいた。

「マスター!」

私が目にしたのは、マスターが椅子に座っている姿だった。寝ているようにこっくりと俯いている。
そして耳にしたのは、マスターの「おかえり」という声ではなく、

「マスター?」

ひゅう、という開いた窓から吹き抜ける風の音だった。

マスターは死んでいた。
寝ているように死んでいた。
腹から血を流して、今にも起きそうな微笑みをたたえて。
テーブルの上には、使われた形跡のない拳銃があった。

「マスター?」

何度声を掛けても、マスターは起きなかった。
死んでいるのだから当然だ。
部屋には争った形跡はなかったが、見慣れない革靴の跡がいくつかあった。


私たちは、行き場を失ってしまった。
戦いが終わった今、マスターの命令なくして私たちは使命を果たせない。
数日が経つと、充電のなくなったものからぽつり、ぽつりと動きを止めていった。

私は充電の仕方を知っていたから、こっそりと生き長らえていた。

マスターのそばを離れたくなかった。
そろそろ蛆虫のわき出す彼のそばには、充電のなくなった数体の仲間が寄り添っていた。

残り数体の仲間たちの寿命もそろそろ終わる。
残された私が片を付けなければいけないだろう。
何かあった時は。マスターからもそう言われていたのだ。

「ひとりでも生きていけるね」

マスターが言った言葉。
あれはどういう意味で言ったのだろう。

またどこかの部屋で充電を求める音がする。
今日で二回目。これで最後だろう。

最後の一体が動かなくなったのを見て、私は家に爆薬を仕掛けた。
離れた場所でスイッチを押した。
マスターと仲間たちは荒野の隅で火薬と炎に包まれた。

これで私の仕事はあとひとつで終わりだ。
街に行き、家政人として自分を売り込んだあと記憶データを消す。
マスターの精巧な造りのおかげで、仕事先はすぐに決まった。
恰幅のいい紳士と身長の高い青年の元に勤めることとなった。私が勤めるのに相応しい金持ちそうな屋敷だ。マスターが昔言っていた通りの新しい主人。

家政人だというのにわざわざ部屋を与えてくれた新しい主人は、記憶データを消す耳の裏のスイッチを押すとにっこりと笑った。

「明日からよろしくね」

私は新しい主人に嘘をついた。
私はまだ、マスターのことを覚えている。
記憶データを消すには、両の耳裏のスイッチを同時に押さなければいけない。

「ごめんなさい」

人知れず私は呟いた。
明日からまっさらな家政人アンドロイドとして、演技をしていかなければいけない。
私はマスターの最後の微笑みを無くすのが嫌で、記憶データが消せなかった。


5/9『忘れられない、いつまでも。』


一年前。
よく晴れたあの日は、君を失った日だった。

寒くないのに凍えそうな空気に紅葉が赤く染まって。

君が泣きながらヒールを鳴らして去っていく。
怒っているような足取りに揺れる髪は、僕が好きなさらさらのロングヘア。
艷やかな黒髪は太陽の光を反射して輝いていた。

「なんでって言われてもねぇ」

ぼやく僕を振り返ることなく、彼女は街路樹に囲まれた道路を進んでいく。
今日で見納めだと分かっていたのなら、もっと触らせてもらえば良かったかもしれない。
そうだ、一週間前に部屋に泊まった時、もっと堪能しておくんだった。

ひりひりと痛みだした頬と心が、じわじわときみを失ったことを分からせる。
でも後悔はしていない。

僕は好きに生きたいんだ。
誰にも嘘はつきたくないんだ。
浮気した僕の頬に赤く手形がついていた。

5/8『一年前』

5/8/2026, 7:38:05 AM

風邪でもないのに熱があった気がした。
競争したあとでもないのにドキドキする。

となりのお兄ちゃんに、初めておばあちゃんちに一人で行ったことを報告した日。

「そっかぁ。よくがんばったね」

と頭をなでてくれたあの日。

あの日私は恋をした。
たぶん、あれが初めての恋だ。

まだ何も知らない、やわやわの初恋。


5/7『初恋の日』

5/6/2026, 1:23:03 PM

『明日世界が終わるなら』
幾度考えたことだろう。

明日、俺たちの世界が終わるなら。
それはこの世に平和が訪れたということ。
俺たちが戦わなくて済むということ。

けれどそれはすなわち――。

「今までよく頑張ってくれました。では、解散の儀式を行います」

俺たちの世界が、主との毎日が終わるということ。
俺たちは――俺は、主がいない世界なんて、考えられるのだろうか。
主がいない世界なんて、耐えられるのだろうか。


5/6『明日世界が終わるなら……』


君と出逢ってから、明日が来るのが怖くなくなったんだ。

太陽が昇ることに背を向けて、布団のなかで丸まってたあの頃が嘘みたいだ。

「太陽が眩しいなら、私が遮る雲になってあげる」

普通は「きみの太陽になってあげる」とかじゃないのかなぁ、なんて思ったけれど、その少し後ろ向きな前向きさが僕に勇気をくれたんだ。

光なんてまぶしいものじゃない。
僕が布団から出るための勇気をくれたひとつの灯。

手を差し伸べるわけでもない。
くぐもった声が聞こえた優しい灯。

毎日じゃない。少し日を空けて。僕が外を嫌がらないように。少しずつ、少しずつ。

そうして見た君の顔は、天女のようだった。


5/5『君と出逢って、』

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