『ブレーメンの街の音楽』
僕はロバ。年老いて粉運びができなくなった。だから楽隊に入ろうと思った。夜明けにはブレーメンに着くだろう。途中、泥棒が騒いでいて息を殺すように歩いた。やがてブレーメンに到着した。街は輝いていて体の重さを忘れてしまう。小さなシニアの楽隊に入れてもらい、看板ロバとして音楽を紡いだ。自分の音楽が森まで届いている。その感覚が好きだった。最高には届かないけど、悪くない人生だったと思う。いい仲間に囲まれて終わったんだから。
もう年だな。狩りをすることができない。明日にでも処分されるだろう
「この猟犬、なんも狩れなくなったんだよ。」
「山にでも捨てとけ。」
「そうだな。」
捨てられて一週間経った。民家から食料を奪ったりして生き延びていたが、どこも対策してきて難しくなった。途方に暮れていたら、家の光が見えた。あそこから何か盗めないだろうか。
結果からすると、盗むことは出来なかった。だが、泥棒に番犬として拾ってもらった。少し荒っぽい性格が似ていて、嫌いにはなれなかった。
今日も森には遠吠えが響く。
あぁよかった。生きてる。
「猫のくせに鼠が取れないなんて」
そう言って飼い主は、私を川に沈めて殺そうとしてきた。私の望みはただ1つ、寿命で死ぬこと。こんなところで死ねない。その思いで命からがら助かった。もう飼い猫になるのは嫌だ。一人で自由に生きていこう。
野良猫は楽なものではなかったが、自由である喜びも感じられた。森からは微かに足音がするような、しないような。
「私たちを結んでくれたのは、チキンのスープです。」
彼に出会ったのは冬のパーティーだった。お金持ちでおしゃべりな叔母さんはクリスマスの少し前に、親戚やお友達、近所の人達をたくさん呼んで食事会を開く。姪である私は料理の手伝いをすることになった。チキンが丸ごと入った香り高いスープ。
来てくれた人達みんな、スープを絶賛してくれた。その時褒めてくれた一人が彼だった。彼と話していると時間が過ぎるが早かった。
そして2年後の食事会の日。みんなの前でプロポーズしてくれた。知り合いばっかで恥ずかしかったけど。
こうして今、結婚式で2人並んでいる。叔母さんが当時のことをたくさん喋っていた。
「チキンのスープに入っていた鶏は私が捕まえたのよ! 脱走しようとしていてもう大変だったわ〜。2人とも感謝してよね!」
森の方から楽隊の音楽が聞こえる。祝福してくれているみたいと2人で笑いあった。
巡り会えたらどうなっていたのか。
もしかして君は知っているのかい?
『落ち葉の焚火』
「あの木の葉が全て落ちた時、私は死ぬ」科学的根拠がないです。確かにクスリは「効く」と思わないと効かなくなる「プラシーボ効果」というものはありますが、「木の葉が落ちた時に人が死ぬ」という事例はありません。
どうしてだよ!俺の親友は変わっちまった。前は友情を大切にするいいやつだったのに。
最近体にAIを搭載する手術が受けられるようになった。勉強しなくても知識が豊富になるし、身体能力も良くなり、病気にもならない。この言葉につられて手術をする者が後を絶たなかった。でも、体にAIを搭載する事には大きなデメリットがあった。人の心を失ってしまうのだ。俺の大親友、ダイチも手術を受けてしまった。ダイチは昔っから勉強が苦手で馬鹿だった。大学にはなんとか行けたけど、勉強なんざしていない。そんな中、AIのことを知ったのだ。最初は頭が良くなっていい事ばかりだ。でも徐々に人の心を失っていく友の姿をみるのが辛くて辛くてたまらなかった。
俺とダイチが出会ったきっかけは、俺が病弱だったことだ。たまにしか幼稚園に来られない俺をダイチは心配してお見舞いに来てくれた。その時に幼稚園であったことを話してくれたんだ。読み聞かせのお話とか自分のお弁当の話とか。ある時、「最後の一葉」の話をしてくれた。ダイチは、「俺がいなくなったとき、お前もいなくなる。でも俺は絶対にいなくならないからな!」って言ってくれた。馬鹿なダイチが幼稚園生のくせにこんなかっこいいこと言ってたのが嬉しかった。小学校3年生くらいには普通の子と同じように学校に通えるようになった。一番の思い出は落ち葉で焚火をしたこと。ダイチも俺もずっとこの関係が続くと思ってた。
今、俺はダイチのアパートの前にいる。ダメ元で話し合ってみようと思ったからだ。インターホンを鳴らす。開いたドアから見えるその部屋は恐ろしいほど無機質でつまらない。アニメのグッズも捨ててしまったんだな。
「ショータ、何の用ですか?」
「もとに戻ってくれ。思い出してくれ。」
「?」
「これはダイチの好きなお菓子。食いながら話そう。」
「食事管理をすることにしたのでいりません。」
「…わかった。幼稚園のときダイチが言った言葉覚えているか?病院で言ってくれた『最後の一葉』のこと。」
「必要のない記憶は全て消去しました。」
「………ふざけんなよ。俺とお前の思い出がいらない思い出な訳ねぇだろ!楽しかったこと、悲しかったこと、何もかも分かち合っただろ!」
「感情論がすぎます。もっと理性に頼ってください。」
「…お前はいなくなっちまったな。帰る。」
「ここにいますけど。」
「じゃあな。大親友。」
部屋を出た途端、虚しい感じがして出る涙も出なかった。ダイチがいなくなったから俺もいなくなる。AIのことについて調べた。
AIになれる手術
・知識が豊富になる
・身体能力が高くなる
・病気にならない
手術費用
9万6千円(入院費用込み)
注意 手術を受けることが出来ない方
・70歳以上の方
・18歳未満の方
・体の弱い方(幼少期も含まれる)
・妊婦の方
人間の心には火がついていて、燃え盛ったり火が小さくなったりする。でも、AIの心には火が宿っていない。かわりにLEDのような照明が付いている。ちょっとやそっとの衝撃では消えないけど、ずっとおんなじ光量でずっとおんなじところを照らし続ける。俺は友の心で暖をとったり、火が消えそうなとき助けてもらうことができなくなった。ダイチという葉っぱが落ちて焚火をした。それを最後に火はつかなくなった。
『文武両道で、性格が良くて、格好良くて、過去に間違いがあるうさぎ』
完全完璧な奴なんているのか?電気のついていない真っ暗な部屋で、僕の顔だけが青白く照らされている。何年も前のことを思い出す。
負けた。のろまなかめに。僕が昼寝をしている間に、コツコツかめは進み続けてゴールした。かめは許してくれたが、周りの人に怒られた。もし、僕が勝ってかめが足の遅さを気にしたらどうするんだって。僕はこの事に心底反省して、聖人君子のような完璧な存在になろうと思った。少しでも償いになるのならと。
勉強、運動、道徳心。身につけるため、毎日努力。経験を増やすためいろんなところに行った。5年が経って、心も身体的にも成長した僕はスポーツ選手として活躍していた。僕の強みは短距離走での瞬発力だ。また、難関大学卒だからクイズ番組に出ることもあった。ネットでは、「文武両道」と褒めてもらえてとても嬉しい。でも、完璧にはまだまだ遠い。エゴサをすると指摘コメントや批判コメントが一定の数見つかる。この人達にも称賛されるようもっと頑張らなくちゃいけないし、もっとたくさんのことができるようにならないと。
今年は四年に一度のスポーツ大会だ。僕は優勝候補として名が挙がっている。しかし結果は7位となった。緊張からくる寝不足や吐き気、腹痛で上手くパフォーマンスが出来なかったのだ。完璧になるにははプレッシャーや緊張にも強くないと。僕はへこんでいた。そこにネットの声が追い打ちをかける。「弱いなら期待させんなよ」 「文武両道とか言われてるけど普通じゃん。」 「性格いいですアピールもウザかったんだよな」……負けたことは事実だから、もっと頑張らなくちゃ。
でもあの日から何かが違った。やる事言う事なんでも批判コメントがあった。「〝僕は努力を惜しみません。いつか実を結ぶはずだから〟何言ってんの?綺麗事やめてもらえます?」 「ここのフォーム崩れすぎ。こんなんで選手とか辞めてほしい」 完璧を目指して正直で優しくしてるのに。コーチに教わったフォームなんだけどな。こんなんで傷つくなんて完璧じゃない。「こいつ中学の時の同級生。かめに勝負挑んで負けてた。昼寝して寝過ごしてた。乙」…………
完璧な奴なんていない。人には得意不得意があるとか、完璧じゃなくてもいいとかそういう教訓みたいなことを言いたいわけじゃない。過去に間違いがある時点で完璧なんかじゃない。「性格がいい」も完璧じゃない。不完全な僕は完璧じゃないところを守る甲羅のようなものを脱いだ。その「完璧」な甲羅にも欠点があることに気づいたから。重すぎる。
『兎の宝物』
僕はあの日確信した。童話を信じれば上手くいく。何でもできるようになるし、悪人は征伐できる。童話は僕の誇り。高校に入って同じような状況になった。でも、なんとかなった。大学を出た後、一流企業に就職した。会社に近かったので、亡くなった祖母の家で一人暮らしをすることになった。大きな暖炉があってお気に入り。上から目線の先輩を征伐しよとしたら、クビになった。どうして?童話の通りにしたのに。悪人には天罰を下さなきゃなのに。嘘つき。僕は絵本を捨てた。
そのあと新しいビジネスを始めた。まず、家を少し改装してお店風にする。
1、宝石を安く売ると言ってお金持ちそうな婦人を家に招く。
2、写真を見せ、宝石を選ばせる。そして先にお金を払ってもらう。
3、睡眠薬を入れたお茶を出し、お茶を飲んでいる間に取ってくると言う。婦人は眠る。婦人の金品を盗る。
4、眠っている婦人を暖炉に隠す。そしてまた、同じように別の婦人を呼ぶ。
5、婦人に暖炉の火をつけてもらう。
6、2〜をやる。
7、繰り返し
これで盗った金品を売れば儲けられる。僕が〇しているわけでもないし。
僕がこのビジネスを始めて一ヶ月が経った。捨てた絵本が家に戻ってきたのだ。しかも何冊か増えていた。恐ろしい。気味が悪くてすぐに捨てた。だけど一ヶ月経ったらまた戻ってきた。やっぱり何冊か増えていた。霊媒師に見てもらったら、絵本一冊一冊に怨霊が憑いているそうだ。軽いお祓い程度じゃ取れないような。…怨霊?絵本の数をよく数えた。!中学で3人、高校で18人、ビジネスを始めて32人、合計53人…絵本も53冊。鳥肌が立った。同時に好奇心が湧いてきた。絵本の一冊を手に取る。「小兎の商売」。読み終えた時、決めた。僕はまた絵本と、童話と生きていこう。日に日に増える絵本なんて最高だ。一度捨てた絵本は一生捨てられない宝物になった。
※イジメ表現あり注意
『カチカチ中学』
僕は童話が大好きだ。小さい子にもわかりやすくて、面白くて、教訓がある。童話は素晴らしい。誇りに思う。中学生になってもその気持ちは変わらない。童話を読んで育ったから、よくいい子とか、優しいとか褒めてもらえる。照れるけど凄く嬉しい。
今日はテストが返された。自慢するつもりじゃないけど、全教科満点の学年1位だった。地道に努力することが大切って「3匹のこぶた」で学んだからね。クラスメイトの1人に、「お前って天才だよな〜。その上、運動もできて優しくて真面目で… 勝てるわけがない。」と言われた。「褒めてくれてありがとう。でも君にも良いところがたくさんあるよ。友達思いで、みんなを笑わせられるところとか!」僕はそう言った。「ホントいい性格だわ〜。勉強は置いといて、その性格はどう生まれたん?」僕はその質問に食い気味で答えた。「僕、童話が好きなんだ!そこから学んだ!3匹のこぶたとか、金の斧銀の斧とか!」大好きなものを誰かに言える!この幸せに浮かれていた。…直後重い石をぶつけられて沈んだ。「えっ!お前絵本好きなの?w子供じゃんwダサw女子全員蛙化だろうねww」…え? え?理解ができない。でも、酷いことを言われたことはわかった。目頭がかぁっと熱くなる。「…冗談冗談っ」微笑んで返した。自分が誇りに思っているもの、尊敬しているもの、大好きなもの、それを悪く言われたら、自分自身が否定されたみたい。許せない。カチカチ山の教訓は「悪い事をした人には天罰が下る」僕は悪い狸に天罰を下さなきゃ!
カチカチ山のうさぎは、狸が背負っていた薪に火をつけて火傷をさせた。火傷は可哀想だな。そういえば彼はポエムを書いていた気がする。写真でも撮ってネットに投稿してみるか。次の日、僕は彼が帰った後、ポエムを盗った。置いていっていることを確認したからね。写真を撮り、机に戻す。新しいアカウントを作って、「同級生のポエム痛すぎワロタw 勝山中学2年3組19番狸森蝦夷太」と写真を添付して投稿。拡散されたタイミングでアカウントを消す。翌日、クラスで、いや学校はその話題で持ちきりだった。こんなのまだ序の口だ。 うさぎは火傷をした狸に唐辛子を混ぜた薬を塗らせて追い打ちをかけた。火傷はしてないし、痛いのは可哀想。彼の給食に下剤を入れた。午後の授業からいなくなってた。 最後うさぎは、狸を泥の舟に乗せて溺れ殺した。殺すのはダメだ。彼は自分の力や容姿に少し溺れている。そこをもう少し沈めてやろう。僕は彼を褒め称えた。ありとあらゆるところを。気分が良くなっているところで言う。「動画とか投稿してみたら?かっこいいし、面白いから絶対人気出るって!」彼は本気にして動画を投稿した。「イケメン中学生」として。もちろんアンチや批判コメでいっぱいだ。僕がポエムの人だとコメントしたら、トレンドに入っちゃった。一週間後、彼は自〇した。僕はいま心の中で誇らしさが溢れている。自分の好きなもので悪いやつに天罰を下すことができた。彼は自分が好き。僕の好きなものを悪く言ったんだから僕も言っていいよね。僕が彼を〇したわけじゃないし。やっぱり童話は凄い。一生僕の誇りだ。