夏の魔法使い

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『落ち葉の焚火』

 「あの木の葉が全て落ちた時、私は死ぬ」科学的根拠がないです。確かにクスリは「効く」と思わないと効かなくなる「プラシーボ効果」というものはありますが、「木の葉が落ちた時に人が死ぬ」という事例はありません。

 どうしてだよ!俺の親友は変わっちまった。前は友情を大切にするいいやつだったのに。
 最近体にAIを搭載する手術が受けられるようになった。勉強しなくても知識が豊富になるし、身体能力も良くなり、病気にもならない。この言葉につられて手術をする者が後を絶たなかった。でも、体にAIを搭載する事には大きなデメリットがあった。人の心を失ってしまうのだ。俺の大親友、ダイチも手術を受けてしまった。ダイチは昔っから勉強が苦手で馬鹿だった。大学にはなんとか行けたけど、勉強なんざしていない。そんな中、AIのことを知ったのだ。最初は頭が良くなっていい事ばかりだ。でも徐々に人の心を失っていく友の姿をみるのが辛くて辛くてたまらなかった。
 俺とダイチが出会ったきっかけは、俺が病弱だったことだ。たまにしか幼稚園に来られない俺をダイチは心配してお見舞いに来てくれた。その時に幼稚園であったことを話してくれたんだ。読み聞かせのお話とか自分のお弁当の話とか。ある時、「最後の一葉」の話をしてくれた。ダイチは、「俺がいなくなったとき、お前もいなくなる。でも俺は絶対にいなくならないからな!」って言ってくれた。馬鹿なダイチが幼稚園生のくせにこんなかっこいいこと言ってたのが嬉しかった。小学校3年生くらいには普通の子と同じように学校に通えるようになった。一番の思い出は落ち葉で焚火をしたこと。ダイチも俺もずっとこの関係が続くと思ってた。
 今、俺はダイチのアパートの前にいる。ダメ元で話し合ってみようと思ったからだ。インターホンを鳴らす。開いたドアから見えるその部屋は恐ろしいほど無機質でつまらない。アニメのグッズも捨ててしまったんだな。
「ショータ、何の用ですか?」
「もとに戻ってくれ。思い出してくれ。」
「?」
「これはダイチの好きなお菓子。食いながら話そう。」
「食事管理をすることにしたのでいりません。」
「…わかった。幼稚園のときダイチが言った言葉覚えているか?病院で言ってくれた『最後の一葉』のこと。」
「必要のない記憶は全て消去しました。」
「………ふざけんなよ。俺とお前の思い出がいらない思い出な訳ねぇだろ!楽しかったこと、悲しかったこと、何もかも分かち合っただろ!」
「感情論がすぎます。もっと理性に頼ってください。」
「…お前はいなくなっちまったな。帰る。」
「ここにいますけど。」
「じゃあな。大親友。」
 部屋を出た途端、虚しい感じがして出る涙も出なかった。ダイチがいなくなったから俺もいなくなる。AIのことについて調べた。

 AIになれる手術
 ・知識が豊富になる
 ・身体能力が高くなる
 ・病気にならない
 手術費用
 9万6千円(入院費用込み)
 注意 手術を受けることが出来ない方
 ・70歳以上の方
 ・18歳未満の方
 ・体の弱い方(幼少期も含まれる)
 ・妊婦の方

 人間の心には火がついていて、燃え盛ったり火が小さくなったりする。でも、AIの心には火が宿っていない。かわりにLEDのような照明が付いている。ちょっとやそっとの衝撃では消えないけど、ずっとおんなじ光量でずっとおんなじところを照らし続ける。俺は友の心で暖をとったり、火が消えそうなとき助けてもらうことができなくなった。ダイチという葉っぱが落ちて焚火をした。それを最後に火はつかなくなった。

9/3/2024, 8:05:36 AM