夏の魔法使い

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『兎の宝物』
 
 僕はあの日確信した。童話を信じれば上手くいく。何でもできるようになるし、悪人は征伐できる。童話は僕の誇り。高校に入って同じような状況になった。でも、なんとかなった。大学を出た後、一流企業に就職した。会社に近かったので、亡くなった祖母の家で一人暮らしをすることになった。大きな暖炉があってお気に入り。上から目線の先輩を征伐しよとしたら、クビになった。どうして?童話の通りにしたのに。悪人には天罰を下さなきゃなのに。嘘つき。僕は絵本を捨てた。
 そのあと新しいビジネスを始めた。まず、家を少し改装してお店風にする。
1、宝石を安く売ると言ってお金持ちそうな婦人を家に招く。
2、写真を見せ、宝石を選ばせる。そして先にお金を払ってもらう。
3、睡眠薬を入れたお茶を出し、お茶を飲んでいる間に取ってくると言う。婦人は眠る。婦人の金品を盗る。
4、眠っている婦人を暖炉に隠す。そしてまた、同じように別の婦人を呼ぶ。
5、婦人に暖炉の火をつけてもらう。
6、2〜をやる。
7、繰り返し
これで盗った金品を売れば儲けられる。僕が〇しているわけでもないし。
 僕がこのビジネスを始めて一ヶ月が経った。捨てた絵本が家に戻ってきたのだ。しかも何冊か増えていた。恐ろしい。気味が悪くてすぐに捨てた。だけど一ヶ月経ったらまた戻ってきた。やっぱり何冊か増えていた。霊媒師に見てもらったら、絵本一冊一冊に怨霊が憑いているそうだ。軽いお祓い程度じゃ取れないような。…怨霊?絵本の数をよく数えた。!中学で3人、高校で18人、ビジネスを始めて32人、合計53人…絵本も53冊。鳥肌が立った。同時に好奇心が湧いてきた。絵本の一冊を手に取る。「小兎の商売」。読み終えた時、決めた。僕はまた絵本と、童話と生きていこう。日に日に増える絵本なんて最高だ。一度捨てた絵本は一生捨てられない宝物になった。

8/18/2024, 9:19:08 AM