夏の魔法使い

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『文武両道で、性格が良くて、格好良くて、過去に間違いがあるうさぎ』
 
 完全完璧な奴なんているのか?電気のついていない真っ暗な部屋で、僕の顔だけが青白く照らされている。何年も前のことを思い出す。
 負けた。のろまなかめに。僕が昼寝をしている間に、コツコツかめは進み続けてゴールした。かめは許してくれたが、周りの人に怒られた。もし、僕が勝ってかめが足の遅さを気にしたらどうするんだって。僕はこの事に心底反省して、聖人君子のような完璧な存在になろうと思った。少しでも償いになるのならと。
 勉強、運動、道徳心。身につけるため、毎日努力。経験を増やすためいろんなところに行った。5年が経って、心も身体的にも成長した僕はスポーツ選手として活躍していた。僕の強みは短距離走での瞬発力だ。また、難関大学卒だからクイズ番組に出ることもあった。ネットでは、「文武両道」と褒めてもらえてとても嬉しい。でも、完璧にはまだまだ遠い。エゴサをすると指摘コメントや批判コメントが一定の数見つかる。この人達にも称賛されるようもっと頑張らなくちゃいけないし、もっとたくさんのことができるようにならないと。
 今年は四年に一度のスポーツ大会だ。僕は優勝候補として名が挙がっている。しかし結果は7位となった。緊張からくる寝不足や吐き気、腹痛で上手くパフォーマンスが出来なかったのだ。完璧になるにははプレッシャーや緊張にも強くないと。僕はへこんでいた。そこにネットの声が追い打ちをかける。「弱いなら期待させんなよ」 「文武両道とか言われてるけど普通じゃん。」 「性格いいですアピールもウザかったんだよな」……負けたことは事実だから、もっと頑張らなくちゃ。
 でもあの日から何かが違った。やる事言う事なんでも批判コメントがあった。「〝僕は努力を惜しみません。いつか実を結ぶはずだから〟何言ってんの?綺麗事やめてもらえます?」 「ここのフォーム崩れすぎ。こんなんで選手とか辞めてほしい」 完璧を目指して正直で優しくしてるのに。コーチに教わったフォームなんだけどな。こんなんで傷つくなんて完璧じゃない。「こいつ中学の時の同級生。かめに勝負挑んで負けてた。昼寝して寝過ごしてた。乙」…………
 完璧な奴なんていない。人には得意不得意があるとか、完璧じゃなくてもいいとかそういう教訓みたいなことを言いたいわけじゃない。過去に間違いがある時点で完璧なんかじゃない。「性格がいい」も完璧じゃない。不完全な僕は完璧じゃないところを守る甲羅のようなものを脱いだ。その「完璧」な甲羅にも欠点があることに気づいたから。重すぎる。

9/1/2024, 9:44:49 AM