「なんでもない」
君がよく口にする言葉。
本当は、何かある癖に君は嘘をつく。
今だってそうだ、その体がかすかに震えている。
「…君は嘘つきにはなれないな」
俯いた君は、拳をぎゅっと握る。
それ以上、かける言葉は見つけられなかった。
僕に、告白をしようとしていた君。
でも、僕はさっき、そんな君の前で別の子から告白された。
君は、告白のタイミングを失って、なんでもないと誤魔化す。
別の子からの告白は、断った。
けど、君はそこまで見てなかった。
ごめんを言う事もできず、君は走り去っていった。
何度も書き直した、紙が黒く濁るまで。
思った通りの話が書けない、焦りが募る。
こんなお話じゃダメだ、だれも読まない。
模索、試行錯誤、その繰り返し。
書き終えた頃には、手は真っ黒、鉛筆は親指くらいに縮んでいた。
書き終えた、ようやく。
ようやく書き終えたんだ、納得のいくお話を。
どうしようもないどん底の絶望、そこから這い上がって
ハッピーエンドにしていく。
僕にとってのハッピーエンド、読む人がどう感じるかは分からない。
けど、それでいい。
読んだ人が感じ取ったものが、このお話になる。
物語は、常に自由に感じ取れるものだ。
ハッピーエンドをどう思うかはその人次第。
君はどうこの物語を感じ取ってくれるかな、
それを考えるとワクワクするんだ。
眼前に広がるは、溢れ落ちんばかりの星の海。
舟は進む、星の海を。
遠い世界、現世を離れた人々の魂を導く舟。
この星の海の何処かに、僕の会いたい人が居るなら。
今ここでこの星の海に飛び込んでしまおうか。
天国と見まごう星の楽園、そこに君が居ないなら
僕の居場所はそこにありはしない。
桜の散る窓辺、白いカーテンが揺らめく病室。
穏やかな春の日差しに照らされる、やせ細った父の顔。
余命残りわずかな父の、数少ない面会の日。
私は、小さい頃から男手ひとつで私を育ててくれた父親が大好きだった。
『お見舞いに来たよ、パパ。』
末期の肺がんになった父は、見る間に痩せこけていった。
それでも変わらない、優しい父の眼差し。
「今日も会いに来てくれてありがとう、最近調子はどうだい…?」
父は体を壊しても、私の心配ばかり。
最後まで、そんな人だった。
安らかな瞳を開けたまま、窓の桜を見つめて、息を引き取っていた父。
納棺の時に、そんな父の棺の中に、桜の枝を一つだけ入れた。
父は、私に「さくら」と言う名前をつけてくれた。
桜の花が大好きな父からの、贈り物の名前。
孤独のスポットライトは、わたし独りを照らしている。
あなたとの記憶は、どれも色鮮やかで、軽やかなもの。
だからこそ、ああ、それ故に
あなたが恨めしいの。
わたしをこんなにも簡単に置いていったあなた
わたしは今もあなたとの過去に取り残されている
過ぎ去った日々が戻らないように、
遠ざかったあなたとの距離は、
戻ることは無い。