どれだけ痣作ったって、血を流したって、やっぱり愛し合ってることには変わりは無かった。
体はダメになっても心がダメになることはないからさ。
でも、それは私だけだったみたい。
貴方は体も心も無傷だったのでしょう?…でもコレは私の妄想に過ぎなかった。…そう思いたかった。
あの拳は、貴方の辛さを心の痛みを具現化したものだから…そう耐えてきたのに。
私にはそんな態度な癖に金髪ロングでミニスカ履いた、あの女にはデレデレしてんじゃん。
それでさ、思ったんだよね。あ、私だけじゃあダメなんだね。嫌、アイツが弱いんだよね。弱いから私が支えて上げなきゃいけなくて。でもそれは私じゃダメだったみたいで。何人か必要だったみたいで、ダメ、だめだったから…。
涙は出てこなかった。痣の数が分からなくなった頃から泣けなくなってしまった。多分、枯れちゃったんだろうね。
だからか、妙に頭が冴えてきて。冷静になって。カバンからスマホ取り出して。あのクソ男の連絡先をスクショ。で、ひとまずブロック。なんかに使えるかもしれないしね。
――あ〜、クソ。なんであんな奴に尽くしてたんだよ。なんで痣作られてんだよ!世界に1つのアタシ様の体だぜ?オーダーメイドしたって完璧にはなんねえんだよ。
あ〜…クソ虚しいなオイ。
こんな日に限って妙に空が澄み渡ってやがる。あ、雲みっけ。ちっせぇなあー…。………。はぁ…。
バイバイって、パイパイに似てるね――
誰か休止符を打ってくれ!
底無し沼に足をとられ、身動きが出来ないまま生け捕りにされているのだから。
黒い艷やかなあの髪が、あの甘い瞳が、視界に入るだけで線香花火が眩い火花を散らしてしまうのだから!
嗚呼、唇の両端が少し上がるだけでその目が細められるだけで私は撃ち抜かれてしまうのだよ!
私の気持ちに気づくはずもなく、歌うように笑いかけて言葉を紡ぐ君。まるで朝日に輝く海のようだ!
誰か終止符を打ってくれ!私のこの物語に!恋心に!
嗚呼、なぜ気がついてしまったのだろうか。気づかないまま終わらせてくれればよかっただろうに。
叶わぬものなど諦めてしまえ!忘れてしまえ!
目の前にある花に止まることを許されない蝶の気分だ。
いっそのこと誰か羽根をもぎ取ってくれ!
終わりを望む物語がここにある。桃色のまま、この夢を終わらせておくれよ!
嗚呼…まったく君は罪な男だよ。
風でチラッと見えちゃった。
別に見ようと思ったわけじゃなくてただただ視界に入ってしまっただけだ。………灰色だった。
俺が着てる服だって同じ布なのに何でアレを神聖視してしてしまうんだろう。
きっと全男子がそう思う。特に思春期を拗らせて女子との接点が殆どない奴はな。……そうさ俺だよ。
学校ではそこそこに男友達ならいるし「アレ」のことなんて頭から抜けてた。
でも家に帰ったら思い出したように紐を手繰り寄せてしまって、頭から離れなくなった。
…灰色だった。女子って白しか履かないのかと思ってた。…でも灰色…いいな…。でも白も…。何なら何もなくても……。
…キモいな。我ながらキモい。ただでさえ女子に話しかけて貰えないのにもっと話しかけられなくなってしまうではないか。止めよう。……。
頭からは離れない。…そして身体が疼き始めた。俺だけじゃない。男子は全員通る道だ。…女子だって何人かは通るだろ…。
……やるか。衣服を乱し、物を露わにし、………。
「…ついに、やってしまった…。」
勿論快感はあったが、それよりも後悔、懺悔が勝った気がした。…いや、これもまた背徳感か……。
いや、俺のせいじゃない。だって全員通る道だ。恥ずかしいことではない。やったことない人なんていないはずだろ。
頭の中を言い訳が駆け巡る。
「……風のせいだ。」
そう、あの風さえなければ。あんな布何かに俺が取り憑かれなくて済んだんだ。
「風のいたずらってやつか…。」
「いつか戻るよ」
そんな無責任な言葉に私は微笑みと共に頷いた。
「適当なこと言わないで」「いつかっていつ?」泡のように膨らむ言葉を飲み込んだ。だって貴方が望む言葉ではないから。
その日から私の中心はなくなった。何のために動こうか?貴方が私を作っていたから、そんな貴方は無責任にも消えてしまったから。別に怒りは湧いてこない。この感情はなんだろう、言葉にするとしたら「無」だ。本当に何もない。辺り一面真っ白で片付いている。濃霧に包まれている。四方を越えられない壁が隔たっている。
貴方を待つために生きている。貴方が帰ってくるとこを信じている自分が段々萎れているのをみて見ぬふりをして自分を欺き続けている。
朝はやはりリールが一番。これが無くては固形化してしまう。蝋を見つめて外に飛び出すのが貴方の子供。朝食を足で摘みながら私は、はなりと考えた。ジェニーはロンドン…ラザニアはブリテン…カザールはカナリアン…。
待っている、まっている。いつかはいつ来ますか。いつとは何ですか。いつかはいつが来るんですよね。そうですか?そうですよね。貴方はそういった。私に。
―――――ひゅるるるる。
風がなびく。お昼時。太陽は1日で最も高い高度に位置するため暖かくなる時間帯。だが今は冬の為、暖かさは何も感じない。冷たい風に肌が切られるような思いだ。…でも嫌いじゃない。
初めはドキドキしてたことも今ではなんにも感じない。もう呆れてしまった。自分のことがどうでも良くなってきたのだ。何をそこまでして苦しむのか。ここまで来てはもう何も思いつかない。今までにあった幾つもの由々しき出来事も呼吸と同然の生物の摂理にすら思えている。
何で屋上の鍵を閉めないのだろう。こんな生徒がいることはネットニュースやらで良く目にするはずだ。そこまで気がいかないのだろうか。さっきまで晴天の如く寒々としていた空模様に少し雲が見えてきた。
……正直言うと少し怖い。それよりも現実が怖い。でも自分から命を投げ出す行為には想像を遥かに超える意味がある。今にでも死にたい。誰かが殺してくれたら良いのに、でもあいにく私は底まで恨まれては無いみたいだ。
決心がつかないから。曇り始めた空を見ていた。何で私がこんなこと悩まなきゃ行けないんだよ。悪いのはアイツらじゃん?
ムシャクシャして、じっとしていられなくなった。立って、ギリギリの位置に立ってみる。この高さから降りれば――開放、解放される。
風でスカートが後ろに靡く。――やっぱり辞めておこうか。家族の顔がよぎるから。この状況がいつまでも続くわけじゃない、終わりは来るはず、きっと、いつか…。
思い切って落ちてしまえば…!でもそんな判断も出来ない弱い人間だから。でも死なないって決めたわけじゃない。しんどかったらいつでも降りれるんだから。
やはり、止めた。踵を返して入口へと向かおうとする。
が、進まなかった。
―――ひゅるるるる――。
視界が青く染まり、急降下を始めた。
落ちていく。世界がスローモーションに見えた。絶望?いや、これも違う。…透明だ。落ちている、という事実のみを脳が反復し、処理できずにいる。
「…アタシの最期、呆気ねえなあ……。」