イカワさん

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―――――ひゅるるるる。
風がなびく。お昼時。太陽は1日で最も高い高度に位置するため暖かくなる時間帯。だが今は冬の為、暖かさは何も感じない。冷たい風に肌が切られるような思いだ。…でも嫌いじゃない。

初めはドキドキしてたことも今ではなんにも感じない。もう呆れてしまった。自分のことがどうでも良くなってきたのだ。何をそこまでして苦しむのか。ここまで来てはもう何も思いつかない。今までにあった幾つもの由々しき出来事も呼吸と同然の生物の摂理にすら思えている。

何で屋上の鍵を閉めないのだろう。こんな生徒がいることはネットニュースやらで良く目にするはずだ。そこまで気がいかないのだろうか。さっきまで晴天の如く寒々としていた空模様に少し雲が見えてきた。

……正直言うと少し怖い。それよりも現実が怖い。でも自分から命を投げ出す行為には想像を遥かに超える意味がある。今にでも死にたい。誰かが殺してくれたら良いのに、でもあいにく私は底まで恨まれては無いみたいだ。

決心がつかないから。曇り始めた空を見ていた。何で私がこんなこと悩まなきゃ行けないんだよ。悪いのはアイツらじゃん?

ムシャクシャして、じっとしていられなくなった。立って、ギリギリの位置に立ってみる。この高さから降りれば――開放、解放される。

風でスカートが後ろに靡く。――やっぱり辞めておこうか。家族の顔がよぎるから。この状況がいつまでも続くわけじゃない、終わりは来るはず、きっと、いつか…。

思い切って落ちてしまえば…!でもそんな判断も出来ない弱い人間だから。でも死なないって決めたわけじゃない。しんどかったらいつでも降りれるんだから。

やはり、止めた。踵を返して入口へと向かおうとする。
が、進まなかった。

―――ひゅるるるる――。

視界が青く染まり、急降下を始めた。
落ちていく。世界がスローモーションに見えた。絶望?いや、これも違う。…透明だ。落ちている、という事実のみを脳が反復し、処理できずにいる。

「…アタシの最期、呆気ねえなあ……。」

11/23/2024, 12:51:15 PM