名もない譫言

Open App
3/2/2024, 12:29:07 PM

「間違えるなよ」
「分かってるって」

 そんな会話が、何度も響く。今まさに、この宇宙船の酸素カプセルがパンクしそうになっている。

 なぜこんな危険な状況に居合わせているのか?答えは簡単、僕が宇宙飛行士だからだ。

 と言っても、初心者中の初心者で、操縦なども実際に動かした事も無い。

 そんな僕は今日、相棒の友人のミスで、酸素カプセルが地球に帰還前に切れる、いや、パンクしそうになるという事態に陥った。

 そんな中、勇敢にカプセルの修復をすると言い始めたのが、友人だった。その勇気に僕も心を動かされ、僕も修復を手伝った。

 正直言って、僕は焦っていた。みんなの命がかかっているんだから。僕は急かすように隣の友人を見る。

「間違えるなよ」
「そう何度も急かすなよ。緊張するだろ」
「でもさ、今のお前は、最後の希望なんだ」
「だから!」
「たった一つの希望なんだよ!」

 その一言で、友人は黙り込む。と共に、酸素カプセルが正常になった。

 後に僕はなんだか恥ずかしくなった。

3/1/2024, 12:31:19 PM

「お前の欲望はなんだ?」

 部活の帰り道で突然、先輩に聞かれた。僕はすぐには思い浮かばなかった。一生懸命考えて、出した答えがこれだった。

「えっと........僕は、これから何事も無く、平和に、みんなと一緒に卒業した.....」
「それは欲望じゃない」

 冷たくそう言い放った先輩には、怒りや呆れの表情は見えず、どこか希望を抱いているようだった。

「いいか?それは欲望じゃなくて理想。俺が聞いてるのは欲望。これからの未来を掴むための“欲”さ」

 さりげなく放った言葉なんだろうけど、僕の心には十分に響いた。

ー*ー

 それからと言うもの、部活に一層力を入れるようになった。先輩の言う“欲”を見つけるために。

 部活に力を入れると、自然と勉強や体調管理にも力が入りはじめた。その勢いを無くさないように、出来る限りを尽くした。

 もう、三月か.........あの日あの時、先輩に言われた事を思い出す。今日で、先輩は卒業だ。最後に、言いたい事があった。

「先輩!」
「おぉ、どうした?俺が居なくなって寂しいか?」
「まぁ........って、そうじゃなくて!」
「?」
「欲望の事!」
「あぁ、決まったのか?」
「うん」
「じゃあ聞かせてくれ、お前の欲望を」
「.........僕は、先輩の後をつぎたい。先輩が守っていた部長の座を受け継いで、先輩と同じ高校に受験して、そして...........................」

先輩を超えます!

 2人きりの空き部屋に大きな声が響く。
欲望という名の理想。理想という名の欲望。

“欲望”と“理想”

3/1/2024, 7:25:25 AM

 私は列車の窓から外を眺める。外は寒いし、雨......というより、みぞれのようだ。

 こんなにも大切な日なのに、空は邪魔をしてくる。最悪だ。ただでさえ悲しいのに、それを更に悲しくさせる。

 今日は母の葬式だ。新年早々、付与の事故で亡くなってしまった。沈む気分をもっと沈ませるのは、母の死を実感させる黒い喪服。

 列車の中では浮いて見えるだろう。私は必死に涙を堪え、次の列車に乗り込む。

2/29/2024, 6:34:10 AM

 久しぶりに、電車に乗って遠くの街へ行く。
そこは、元僕が住んでいた家のある街だ。

 駅から歩く事30分。黄色い壁で庭があって、目が覚めるほど赤い屋根の家が見えてきた。

 誰もいないのに、インターホンを押す。緊張しているのだろう、押す手が震えている。その時、ガチャリと扉が開いた。

「はーい.........って、ど、どちら様でしょうか。」

 小柄な女性が出てきた。声質的に大学生だと思われる。僕は驚いた。びっくりすると共に、安心と、恥ずかしさと、悲しみが込み上げてきた。

「す、すみません。家を間違えました。」

 そうとしか言えなかった。扉がしまった後、すぐに駅に向かって走った。気がつくと、眼からは涙が溢れていた。

 帰りの電車からは、黄色い家が見えた。あの家が受け継がれた事、取り壊されていなかった事への安心と、それ以上の..........。

 あれは、僕の家なのに.........。僕が手放してしまったからだ。後悔しても、遅いだろう。

ー*ー

 あれから僕は、遠くの街へ職場を移動した。電車に乗るたびにあの家が見えて、複雑な気持ちになる。でも、きっと大丈夫だろう。

 そんな事を思いながら、今日も僕は遠くの街へ行く。

2/27/2024, 10:25:21 AM

綺麗な水面、澄んだ空。私は今、海に来ている。
気持ちいい水中に潜って、砂浜を走り回って遊ぶ。
今だけはスマホから離れて、思いっきり楽しもう!

ー*ー

汚れた水面、悪天候の空。私は今、海に来ている。
水中は潜れるほど綺麗じゃなくて、砂浜には貝殻やクラゲの死骸がいっぱいあって、歩くだけでも痛いくらいだ。ガッカリしてスマホを取り出し、インターネットを開いた。

Next