君は今、何をしているのだろう。
呟いた言葉に慌てて口を塞ぐ。
こんなにもあの子の事が好きだったなんて、
自分でもびっくりだ。
子供の頃に離れ離れになってしまった僕たち、
君は今______僕を覚えているだろうか
俺は空を見上げた。
それは雲に覆われた広い空だった。
「やっぱ引きこもってた方が良かったな」
空き缶をゴミ箱に投げ込み、そう呟いた。
せっかく外に出たというのに、真っ黒な空は、それを祝福してはくれなかった。
歩くと、それを見計らった様に、雨がポツポツと降り始めた。この季節だと、雨が服に当たって冷たいし、なんとなくジメジメする。
「最悪だな.........」
持ってきていた鞄を探るも、折り畳み傘は見当たらない。おまけに防げる物も何もない。
仕方なく鞄を頭に乗せるも、辞めだ。ため息を吐きながら、重い足取りで家へ帰る。
(金輪際絶対に外に出る事はないだろうな
いや、出てたまるか)
普通の小雨が物憂げな空に変わる時、俺はそう固く決心した。
「う“ぅ...........あ”ぁ!」
騒がしい病室に、女性の叫び声が聞こえる。
何時間経ったのだろう......。意識が飛んでしまいそうな激痛に見舞われ、時の感覚を失う。
「もう少しです!頑張ってください!」
看護師さんの励ます声も、自分の声でかき消される。その時、体がふっと軽くなる様な、股の間から、お腹から、痛みが出て行った様な感覚に見舞われる。
「はぁ.........はぁ.........はぁ.........」
「奥さん!生まれましたよ!赤ちゃんですよ!」
看護師さんは泣いていた。いや、泣き笑いの表情だった。その時、安心しきったのか、意識が飛んだ。
ー*ー
数時間経った後、私は小さな小さな、守るべき未来、“命”に触れた。温かくて、柔らかくて、すぐに壊れてしまいそうな“命”は、安らかに眠っていた。
__私は苦悩している。
明日はバレンタインだ。みんな(女子限定)思い思いに、それでいて熱心にチョコ作りに励む。
私はというと、結構チョコは上手くできた。が、問題はどう渡すかだ。隣のクラスの彼。
友チョコだと偽るのも心苦しいし、かと言って下手に告白して空回るほど馬鹿じゃない。でもここでしなくてはいつする?卒業式は目の前だ。
そんな事を思いつつ、弁当箱に詰めたサンドイッチを頬張る。私は至って真剣だ。その証拠に、今日はよく眠れなかった。
__バレンタイン当日。
私は朝早く教室に入った。ただし、隣の教室に。
案の定、彼は机に向かって、勉強している。
えらいなぁ。これからする事とは真反対に、のんきな事を呟く。ゆっくりと彼の机に歩み寄る。
「あれ?君って隣のクラスの......」鈴のような声で言葉を放つ彼。いまさら緊張してきて、顔が引きつる。
「こ、これ!えっと......バレンタインチョコ」ほぼほぼ押し付けるようにチョコの入った袋を渡す。そのまま私は教室を飛び出していた。
ー*ー
隣のクラスの子に、小さな袋を渡された。中身を開けると、丁寧に銀紙に包まれたチョコがあった。その銀紙の裏には小さな文字で、
___言えない思いはチョコに混ぜて、恥ずかしい気持ちはゴミ箱に捨てて。今、あなたに伝えます。
「I love you」