名もない譫言

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「お前の欲望はなんだ?」

 部活の帰り道で突然、先輩に聞かれた。僕はすぐには思い浮かばなかった。一生懸命考えて、出した答えがこれだった。

「えっと........僕は、これから何事も無く、平和に、みんなと一緒に卒業した.....」
「それは欲望じゃない」

 冷たくそう言い放った先輩には、怒りや呆れの表情は見えず、どこか希望を抱いているようだった。

「いいか?それは欲望じゃなくて理想。俺が聞いてるのは欲望。これからの未来を掴むための“欲”さ」

 さりげなく放った言葉なんだろうけど、僕の心には十分に響いた。

ー*ー

 それからと言うもの、部活に一層力を入れるようになった。先輩の言う“欲”を見つけるために。

 部活に力を入れると、自然と勉強や体調管理にも力が入りはじめた。その勢いを無くさないように、出来る限りを尽くした。

 もう、三月か.........あの日あの時、先輩に言われた事を思い出す。今日で、先輩は卒業だ。最後に、言いたい事があった。

「先輩!」
「おぉ、どうした?俺が居なくなって寂しいか?」
「まぁ........って、そうじゃなくて!」
「?」
「欲望の事!」
「あぁ、決まったのか?」
「うん」
「じゃあ聞かせてくれ、お前の欲望を」
「.........僕は、先輩の後をつぎたい。先輩が守っていた部長の座を受け継いで、先輩と同じ高校に受験して、そして...........................」

先輩を超えます!

 2人きりの空き部屋に大きな声が響く。
欲望という名の理想。理想という名の欲望。

“欲望”と“理想”

3/1/2024, 12:31:19 PM