たまには少しだけ凝ったものが食べたい。
年末は特に仕事が忙しく、気付けば煮る、焼く、炒める、炊き込む等のシンプルな料理ばかり作っていた。
それでも君は文句の一つも言わずに「美味しい、美味しい」と食べてくれるが、流石にそろそろ飽きてくる頃だろう。
手早く作れて、だけど少しだけ凝った感じの料理か……。
何かあったかなあ、と仕事帰りに行きつけのスーパー内をウロウロする。
珍しくブラウンマッシュルームが売っていた。
キノコは身体に良いから買っておこう、とマイタケと共にブラウンマッシュルームをカゴに入れて、さらに野菜コーナーをうろついていると紫玉ねぎが目に入った。
ツヤツヤの赤紫色、ちょっと君に似てる気がして思わず手が伸びる。
そうだ、ボンファムを作ろう。
そうと決まれば、足早に鮮魚コーナーへと向かった。
テーマ「冬休み」
早朝、いつものようにリビングのモップ掛けを軽くしている時だった。
廊下の先、玄関に置いてあるスリッパ置きの下に、クチャクチャに丸まった黒い手袋が落ちていた。
昨日は、帰りが遅かったから置き忘れちゃったのかな?
そう思って、トコトコとモップを掛けていきながら手袋に近付き、拾おうと手を伸ばして。
モゾリ……、と黒い手袋が微かに動いたので、サッと手を引っ込めてマジマジとソレを凝視。
玄関の薄暗さに慣れてきた目で、寒さに縮こまった毛むくじゃらで長い八本脚を視認して。
ぎゃあっ、軍曹!!
私はビックリして叫ぶと、君が居る洗面所に逃げ込んだ。
テーマ「手ぶくろ」
起き抜けに淹れたコーヒーの湯気が、カーテンを開けただけの薄暗いリビングに白く立ち昇った。
冷え切った窓辺に佇みコーヒーを一口飲んで、ふあっと欠伸を一つ二つ。
寒いね。
フルフルと揺れる肩に、君の手がそっと置かれた。
柔らかなネル越しに伝わってくる君の温もりに背を預けて、朝焼けに染まりゆく空を君と二人で暫し見入る。
たまには早起きするのも良いでしょう?
そう言ってフワリと微笑む君に頷いて、口に手を当てて盛大に欠伸をした。
テーマ「クリスマスの過ごし方」
待ち合わせ場所に着くと君が既にいた。
駅前広場に設置された大きなクリスマスツリーの陰に隠れるように佇む君は、チャコールグレーのコートのポケットに手を突っ込んで、ぼんやりとどこか遠くを見ている。
強烈なビル風によって乱れた髪を手櫛で整えて、足早に君の元へと向かう。
会話もそこそこに手を引かれてツリーの裏側、隠れるように吊り下げられたヤドリギの下で。
ちゅう、と君の唇が控えめに頰に触れた。
耳まで真っ赤にして照れくさそうに微笑む君。
ほっぺはノーカンだよと私は笑い、無防備な君の唇を奪った。
テーマ「イブの夜」
君に物欲なんて、有るんだろうか?
欲しいと思ったら大抵の物は買えてしまう位には高給取りな君だが、生活必需品以外を買って帰ってきたことは皆無だ。
唯一有るとすれば二年前に買ってきた、3号ポットに植え付けられた弱々しい樹勢の、売れ残りの観葉植物くらいか。
君が甲斐甲斐しく世話を焼いたお陰か、ひ弱な姿は影も形も無くなって、今では伸びに伸びて窓辺を占拠している。
アレに合うオーナメントでも買っていこうかと、おもちゃ屋の前に佇む。
……やめておこう、枯れたら一大事だ。
ナイフのように鋭く冷たい風が吹き抜ける街を、眩く照らされた路面店のショーウインドーを眺めながら歩く。
スーツも革靴もフルオーダーだけど、それは仕事で必要だからだし、既製品ではピッタリサイズが無いからだ。
スタイルが良過ぎるというのも考えものだな、と道行く人々を一瞥して苦笑する。
その時、ソレがふと目に入った。
ああ、君もこんな感じだったのかな。
なんて思いながらソレに手を伸ばした。
テーマ「プレゼント」