いつものように温い水場について行くと、凄まじい臭いがした。
こんなのに入ろうというのか。
やめておいたほうが良い、と忠告するが君は無視、パパっと服を脱いで水場へ行ってしまう。
水場から桶で掬った湯を身体に掛けている、ザパザパと床に壁に湯が撥ねる度に臭いがドアの隙間から漏れてくる。
あいつはもうだめだ。
てったいてったーい、と引戸をガリガリと爪で掻いて開けるとリビングのソファの裏に逃げ込んだ。
テーマ「ゆずの香り」
急にタコ焼きが食べたくなって、商店街のタコ焼き屋でトッピングなしの普通のタコ焼きを一つテイクアウト。
ソースの甘辛い濃厚な匂いに思わず涎が出そうになる。
我慢出来ずにタコせんも一つ購入、タコ焼きと一緒に受け取って早速食む。パリとろぉ〜サイコーだあ。
早々にタコ焼きの部分を食べきって、甘じょっぱいサクサクのセンベイを齧りながら商店街を抜けた。
まだ六時前だというのに既に真っ暗な空に星を探しながら、今日は独りで家路に就く。
テーマ「大空」
ひとりっ子だからだろうか、君がたまに甘えん坊になるのは。
帰宅するなりオーダーメイドのスーツを廊下に脱ぎ散らかした君が無言で、夕飯の支度をしていた私の背に張り付いてくる。
Yシャツに下着と通勤ソックスを履いただけの、ちょっと間抜けな格好の君。
腹に巻き付いている節くれだった手をそっと撫でながら「おかえり」と囁けば、もごもごと何を言っているのか聞き取れない君の声が返ってきた。
肩口に埋めた顔をスリスリと擦り付けてくる君の、柔らかい猫っ毛が首筋に当たって擽ったい。
マッシュルームをスライスしていた手を止めて、軽く濯いだ包丁を水切りカゴに置いてから、クルリと君の方を向く。
冷え切った君の頬に両の掌を添えて、改めて「おかえり」とスッと伸びた鼻梁にキスを落とした。
テーマ「寂しさ」
暮れが近づいてきた。
秋の終わりからやっているのに、我が家の大掃除は終わる気配が無い。
脱いだら脱ぎっぱなし、やったらやりっぱなし、しっちゃかめっちゃかな家の中で。
クリスマスツリーなんか設置出来るわけないでしょう。
さっさと部屋の掃除しなさい、靴下を丸めて脱ぐな。
お菓子の空き箱は捨てろ、空き袋をテーブルに放置すんな。
こんな不潔な家に友達呼んでパーティーなんてしたら、明日から友達居ないよ。
うちは無宗教だからサンタさんなんて来ないし、このままだったら正月も無いからな。
テーマ「とりとめもない話」
ぬくぬくとした毛布の中、既に目は覚めてはいた。
が、なかなか起きることが出来ずにいる。
冷えた空気を吸う度に鼻の奥がヒリヒリと痛む。
流石にもう冬だな、と冷えた鼻を毛布に埋めて目を閉じた。
……危なっ。 流れるように二度寝を決めようとしていたが、今日は朝から色々と用事が入っていたことを思い出して、ベッドから飛び起きる。
手早く身支度を整えてリビングへ向かうと、カーテンの隙間からチラチラと白が舞っているのが見えた。
テーマ「雪を待つ」