ひとりっ子だからだろうか、君がたまに甘えん坊になるのは。
帰宅するなりオーダーメイドのスーツを廊下に脱ぎ散らかした君が無言で、夕飯の支度をしていた私の背に張り付いてくる。
Yシャツに下着と通勤ソックスを履いただけの、ちょっと間抜けな格好の君。
腹に巻き付いている節くれだった手をそっと撫でながら「おかえり」と囁けば、もごもごと何を言っているのか聞き取れない君の声が返ってきた。
肩口に埋めた顔をスリスリと擦り付けてくる君の、柔らかい猫っ毛が首筋に当たって擽ったい。
マッシュルームをスライスしていた手を止めて、軽く濯いだ包丁を水切りカゴに置いてから、クルリと君の方を向く。
冷え切った君の頬に両の掌を添えて、改めて「おかえり」とスッと伸びた鼻梁にキスを落とした。
テーマ「寂しさ」
12/19/2023, 5:01:33 PM