いつもより少しだけ早い時間に、甘くて美味しそうな匂いを漂わせながら、君が帰ってきた。
お土産だよ、と君に渡された茶色い紙袋。
きっちりと口の閉じられたその紙袋から良い匂いがした。
何だろうか、三つ折りにされた袋の口をクルクルと捲くって中に手を入れる。
さっきよりも濃い匂いがして、思わずうっとり。
ヌメヌメと滑って逃げ回る丸っこい物体を鷲掴みにして袋から取り出す。
陶器のように冷たく固い、洋梨のような姿形の黄色い果実。
花梨だ、鼻先に近づけてスンスンスンスンと匂いを嗅ぎまくる。……ふう。
ジャムにしよ。
テーマ「秋風」
重たい毛皮を脱ぎ捨てて、虹の橋を渡る。
灰色の針山は眼下に、抜けるような青空の下、誰に縛られることもなく翔けた。
もう痛くない、苦しくない、疲れることもない。
こんなに走り回れる、目も良く見える。
風が気持ち良い、空が綺麗だ。
果てしなく続いていく虹の橋、一つ嘶いて駆けていく。
何処までも広がる蒼穹。
君と最後に見た空の色と、似てる気がして。
虹の橋を渡った先で、ただ君だけを臨む。
テーマ「また会いましょう」
たまに君が読んでいる、小難しそうな専門誌。
君が席を外している隙に、興味本位で頁をパラパラと捲ってみた。
英語の長文、専門用語と読めない知らない漢字に申し訳程度のてにをは。 当然ルビはない。
頭がクラクラしてきた、本から離した手をそのまま額に押し当てて、テーブルの上をぼんやりと眺めた。
通話の邪魔と外されたタッチペンが転がってる。
片側がボールペンになっているタイプのヤツ、とても便利と君が重宝している物。
なんとはなしに手にとって、ボールペン側のキャップを取った。
そして、再び専門誌の頁をパラパラと捲って、幾つかの文字を丸で囲んでいく。
君は栞を使わないから、どこまで読んだのか分からない。
けど、気づいてくれると嬉しいな。
丸を描き終えて、テーブルの上、寸分違わぬ位置に専門誌を戻して。
君が戻ってくるのをドキドキしながら、ソファに座って待った。
テーマ「スリル」
諦めることを知らない君は、また羽ばたこうとするのだろう。
天へと手を伸ばし、折れた翼を広げて。
君はもう飛べないのに、無数の鎖に雁字搦めで。
藻掻く度に翼が赤く傷ついていくのに。
それでも足掻く君に、何故だか心惹かれている。
テーマ「飛べない翼」
適当に描いた木のイラストで、いったい何が解るというのだろうか。
分厚い本とイラストを交互に見やる医療従事者を鼻で笑った。
占いに毛の生えたようなその鑑定に何の意味があるのか、聞いてみたかったが止めた。
どうせマトモな回答など返ってこない。
自分が何をしているのかすら理解していないのだから。
占い好きのこの医療従事者の気の済むまで。
否、飽きるまで。
この無為な時間を過ごすことになるのだろう。
嗚呼、早く帰りたい。
テーマ「脳裏」