真白の紙に、世界を写す。
黒と白と灰色で構成された、空想の世界を。
風景を、人物を、物語を、少量の言葉とオノマトペを用いて描いていく。
登場人物の怒りや悲しみ、喜び、絶望、様々な感情の変化を、体のありとあらゆるパーツを使って表現する。
紙の中の登場人物と同じように、私も生きていけたらな。
病院のベッドの上で、そんなことを考えながら。
今日も私はペンを走らせ、世界を描く。
テーマ「意味がないこと」
プニプニのお腹、引き締まったお腹。
鏡に映る君の腹と自分の腹を見比べて「げせぬ」と自分の弛んだ腹を叩く。ぺちーんっ、いい音。
朝夕同じものを食べているのに、何故に自分だけ太るのか。
運動だってしてるし、昼食も腹八分目に抑えてる、おやつなんかカロリーゼロのゼリーを食べているのに。
何で、こんな頑張ってるのに何で下腹が出るんだ。
何処が違うのか、頭の天辺から爪の先までスッポンポンの君を舐めるように、若干、恨めしげに見つめた。
テーマ「あなたとわたし」
珍しく定時で上がれたので、ちょっとだけ寄り道。
駅前にある三階建ての本屋を上から順番にウロウロ。
学生向けの辞書や参考書、赤本を見て、遠く懐かしい学生時代を思い出す。
あの頃は、遊んでばっかりだったなあ。
クスッと溢れた笑い声を咳で誤魔化しながら、隣の棚へと移る。
出版社別に並べられた漫画本、そういえば買い損ねていたヤツがあったな、と棚を行ったり来たりして
見つけた漫画をカゴに入れていく。
ついでに面白そうな漫画や小説も何冊かカゴに入れて、下の階へ降りた。
二階は普段使いの文房具や子供が好きそうな可愛らしい雑貨に定番の事務用品が並んでいた。
多種多様な文房具を眺めている内に、普段は滅多に湧いてこない物欲が……。
余計なものをカゴに入れてしまう前に一階へ退散して、そのままレジへ向かうと、レジのすぐ側の自動ドアが開いた。
白い飛沫と滝のような轟音と共に、塾の鞄を濡らした女の子がピョンと飛び込んでくる。
キャーキャーとはしゃぐ学生の声が、激しい雨音に混じって聞こえた。
テーマ「柔らかい雨」
おや珍しい、君の無防備な姿を見つけて、思わず口から漏れた。
静かなリビングに降り注ぐ燦々たる午後の陽。
ソファで転寝している君、読書でもしていたのだろう。
だらんと床に垂れ下がった左手に、文庫本が引っかかっているのが見える。
何時もは凛とした君のあどけない寝顔に心癒されながら、起こさないように、そおっとブランケットを掛けた。
テーマ「一筋の光」
荷物を運び出され、がらんどうになった室内を見渡した。
日焼けした窓際のフローリング、ポスターの跡が薄っすらとついた白い壁。
ちょっとだけ邪魔だったキッチンとの間仕切り、古めかしい銀色のシンクとIHの卓上コンロ。
たった数年住んでいただけなのに、少しだけ離れ難く思うのは、何でなんだろうな。
ギイギイと軋む音のする、慣れ親しんだドアを開ける。
今までありがとうございました。
部屋に向かって深々と頭を下げてから、ゆっくりとドアを閉じた。
テーマ「哀愁をそそる」