最近、縄張りの水場に知らない奴が来るようになった。
白黒の斑、尾っぽの折れ曲がったブサイクな野郎だ。
ここはオレの縄張りだぞ、と怒ると奴も全身の毛を逆立てて威嚇仕返してくる。
始終無言の不気味な奴だ。
オレだってヒマじゃない、さっさと何処かへ行っちまえと唸って、奴がビビっている間に暖かい寝床へ戻る。
フカフカに包まって、イビキをかいて眠るデカい子分の股の間に体を埋めて、奴が追ってきてないかと聞き耳を立てた。
テーマ「鏡の中の自分」
明日は、何をしようか。
フカフカと暖かいベッドの中、目を閉じて考える。
君と一緒に何処かへ行こうか、それとも家でノンビリ過ごそうか。
たまには気分転換に神社へ行くのも良いかもしれない、その後は近くの本屋や日替わりの店を覗くのも悪くはないな。
あんまり家でゴロゴロしてたら、あっという間にブクブク太って、君に嫌われてしまうかもしれないし。
何処に行こうか。 君は何処に行きたい?
真っ暗闇の中、いつものスーツを着込んだ君の姿が浮かんで、思わず笑みが溢れる。
差し出された君の手を取って、面白可笑しい夢の中。
君と一緒に旅をする。
テーマ「眠りにつく前に」
仕事帰りに頻繁に買食いをしていたツケが回ってきたようだ。
三つ揃えのベストのボタンが嵌まらない。
あともうちょっと、と頑張るがやっぱり嵌まらない。
洗面所の鏡の前、頑張らせ過ぎて緩んでしまったベストのボタンを見て、思わず溜め息が出る。
自分ももう若くない、そろそろ自分が生まれた時の父親の年齢になる頃だ。
自分が生まれた時、父の腹は既に立派なビール腹で少し動くたびにタユンと揺れていたのを覚えている。
……あれはイヤだ、あれだけは絶対に、あれだけは!!
もう買食いはしない、帰りは一駅手前で電車を降りて歩いて帰ろう、と軟い腹を撫で擦りながら決意した。
テーマ「永遠に」
蛇口を捻れば、そのまま飲むことのできる綺麗な水が出てくる。
スイッチ一つで、ちょうど良い温度の湯が沸き、楽々と飯が炊ける。
学校に通い、様々な物事を学ぶ機会が与えられている。
ケガや病気の時には、誰でも病院に行って医者に診てもらえる。
自由に恋愛をして、結婚して子供をもつことができる。
これが『あたりまえ』になったら、きっと不幸だ。
テーマ「理想郷」
人は忘れてしまう生き物だから。
君の顔も名前も、もう思い出せない。
夢の中の君は何度も僕を呼んでくれるのに、僕は君の名前を呼んであげることすら出来ない。
君の怒った顔も、泣き顔も、膨れ面も、寝顔も、笑顔も、全部、全部見ていた筈なのに。
もう何も思い出せない。
もうこれ以上、忘れたくないよ。
こんなふうに想うほど愛していた君のことを。
テーマ「懐かしく思うこと」